短歌(3/2掲載)

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【斉藤 梢 選】


霜のせて風にも揺れぬ葉ぼたんは光と影の彫刻の花   石巻市開北/ゆき

【評】冬の寄せ植えに多く使われるのが「葉ぼたん」。冷たい外気にも屈することなく在る「葉ぼたん」を見て感じたことを、適切な言葉で表している。植物を詠むときには、その姿かたちを描写する方法と、気づきや印象や感受したことを述べる方法がある。この一首は「彫刻の花」という独特な見立てだけが目立つ表現をしていないところが優れている。「霜」で寒さを言い「風にも揺れぬ」では「葉ぼたん」の特質を示しているからこそ感覚的な下の句が生きる。冬の日の「葉ぼたん」の葉の縁(ふち)の清冽とした美しさを想像する。


児童らの川の絵見れば不思議なる生物もいて一人でうふふ   石巻市羽黒町/松村千枝子

【評】児童らが一生懸命描いた「川の絵」を見て、作者の心はやわらかく展(ひら)かれてゆく。川の絵の中の何かわからないけれども命のかたちとして描かれている「不思議なる生物」に、心惹かれたのだろう。多くの言葉を連ねることなく、説明せずに「うふふ」の三文字を選んだことで、生き生きと息づく一首になった。


今日もまた夕陽を送り飯を食う日記のなかに残す短歌(うた)ひとつ   石巻市駅前北通り/津田調作

【評】詠むことは、その日その時を残すことでもある。淡々と日常を詠むように思えるが、独特の味わいがある作品。「夕陽を送り」の表現に情感が込められている。日々は同じように過ぎてゆくかもしれないが「残す短歌(うた)」は、かけがえのない「ひとつ」であろう。


昭和期に木造船で鮭取りに北洋(きた)の荒海仲間と越えて   石巻市水押/阿部磨

【評】「昭和100年」の今年。昭和の時代を振り返ることも多いのでは。作者は心の中に鮮明にある漁の記憶に文字を与えて詠む。下の句の具体が力強い。


外出もままならぬ老を癒しいる歌詠む心の自由な世界   石巻市南中里/中山くに子

浦に浮く牡蠣樽の数減る様を新昌さんは空から見てるか   女川町浦宿浜/阿部光栄

こんなにも平和な場所(ところ)あったのか落葉の中で春が膨らむ   東松島市赤井/佐々木スヅ子

薄黄金(うすこがね)弾けるような臘梅は鎖のかかる庭に独り居   東松島市矢本/川崎淑子

桜木に五ミリのつぼみひしめいて春の始まり確かに来てる   石巻市流留/大槻洋子

戦前より七人の子を育てあげ苦労の一生母は尊し   石巻市あゆみ野/日野信吾

凍る朝川面は白く葦淡く墨絵のような水鳥の群れ   東松島市赤井/茄子川保弘

節分の鬼に泣いてた女の子たくましい母の顔になりゆく   石巻市水押/佐藤洋子

一通り鍬を振り終え畝整理 春に備えて一汗流す   石巻市桃生町/佐藤俊幸

<ロボコン>も<009(ゼロゼロナイン)>もありがとう電車がまた来る希望のあの日   石巻市駅前北通り/工藤久之

雪の朝それでもスズメ待っているいつもの石にいつものお米   東松島市矢本/畑中勝治

ウォーキング南へ北へさあ歩け道無き道を歩いたあの日   東松島市矢本/奥田和衛

枯れ芝を踏めばふかふか心地良く老いの足にも歩く楽しみ   石巻市向陽町/成田恵津美

早朝に白鳥の群れかやかやと相談するか今日の餌場を   石巻市桃生町/千葉小夜子