俳句(3/9掲載)

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【石母田星人 選】


萌黄色の背のびゆつくり春の山   石巻市流留/和泉すみ子

【評】<春あふれライオン山も背のびして>の先行句がある作者。春山を背のびと捉えたのは同じだが、今作は「萌黄色の背のび」とさらに上質に感受した。目覚めたばかりの山の空気感も伝わってくるようだ。


薄氷は天の手鏡踏まず行け   東松島市あおい/下山慶子

【評】大自然との対話で得た「薄氷は天の手鏡」という詩的感受が、下五のやや荒っぽい叫びを生んだ。


龍笛や響け枯野の果てまでも   石巻市渡波/阿部太子

【評】雅楽で演奏される龍笛。軽やかで迫力のある音色は舞い立ち昇る龍の鳴き声を表しているという。広大な枯野は、龍が飛翔するのにふさわしい空間だ。


鷺一羽降りて水辺の淑気かな   石巻市新館/高橋豊

息白し万石浦は水鏡   石巻市流留/大槻洋子

燦燦とかなたに春の居るここち   東松島市矢本/田舎里美

厳冬や奇祭の多きわが郷土   東松島市赤井/志田正次

ドンコ汁食めば写るや吹雪く海   石巻市駅前北通り/津田調作

原子炉につづく凍土に風一陣   多賀城市八幡/佐藤久嘉

冬帝や乳房も癌も生きている   石巻市開北/ゆき

落葉踏む七色の音返りくる   石巻市向陽町/成田恵津美

校門に警備のごとき雪達磨   石巻市小船越/芳賀正利

俎板に子持ちの真鱈畏まる   石巻市中里/佐藤いさを

一枝の木を動かして春きざす   石巻市丸井戸/水上孝子

クロッカス大地動かし天を突く   石巻市水押/阿部磨

シャツ通す腕の軽さや水温む   松島町磯崎/佐々木清司

木開きや心地良き風露天風呂   石巻市湊/斎田流雲

雪嵐色も形も塗り潰し   石巻市門脇/佐々木一夫

春の宵化粧直してレイトショー   東松島市矢本/菅原京子

春色のマニキュアふふふ通院日   石巻市桃生町/西條弘子

院内のケーキショップや斑雪   石巻市中里/川下光子

冬日向優しき光降り注ぎ   石巻市桃生町/西條和江

風吹きて剪定の枝ままならぬ   石巻市桃生町/佐藤俊幸

古里の細道染めて冬茜   石巻市元倉/小山英智

美容師の手さばき早しクロッカス   石巻市のぞみ野/阿部佐代子