【石母田星人 選】
牡蠣をむく八十路のその手美しき 石巻市渡波町/小林照子
【評】喜怒哀楽など思いを直接言わないのが俳句。だがここは、美しき以外では表せなかったのだろう。牡蠣を手早く剥いて、乳白色の身でボウルを満たしてゆく。ご高齢の鮮やかな手際に圧倒されている作者。
瑞鳥やつがいで過ぎる初日の出 東松島市赤井/志田正次
【評】瑞鳥とは吉兆が起こる前兆として現れる鳥をいう。よぎったのは鶴か白鳥か。何ともめでたい。
綿虫の微かな青をいとほしむ 石巻市桃生町/西條弘子
【評】白い綿状物質で体を覆って飛ぶ虫。捕らえてみないと体のかすかな青には気付けない。少しの間、綿虫と戯れたことで童心がよみがえったのだろう。
初春の要のきつき舞扇 石巻市流留/大槻洋子
寒稽古きりりと的へ矢を放つ 東松島市あおい/大江和子
伊勢海老の腰の曲りの麗しき 石巻市丸井戸/水上孝子
混沌のひと世が暮れる嫁が君 石巻市蛇田/石の森市朗
寒月に万石浦の牡蠣肥る 多賀城市八幡/佐藤久嘉
賀状受く写真に遠き山河あり 松島町磯崎/佐々木清司
正月や曾孫と遊ぶゑびす顔 石巻市駅前北通り/津田調作
炉話やあれは確かに泣き黒子 石巻市中里/川下光子
冬耕の帰り仕度や夕茜 石巻市中里/佐藤いさを
ゆきうさぎ雪に埋れてしまひけり 石巻市小船越/芳賀正利
平和つぐ九条燦と初御空 石巻市広渕/鹿野勝幸
三が日激走伝える名調子 東松島市矢本/菅原京子
あの君が大人の顔して卒業す 石巻市流留/和泉すみ子
枯葉踏みふわふわ気分トレイル路 石巻市新館/高橋豊
味噌汁の熱さの馳走凍てる朝 石巻市小船越/堀込光子
冬ざれや小舟ゆらして風通ふ 石巻市門脇/佐々木一夫
毛糸帽少し深めに朝散歩 石巻市湊/斎田流雲
出稼ぎの父を待ち侘び年の暮 石巻市元倉/小山英智
初競りにいわし大漁初祝い 石巻市水押/阿部磨
切り株のオブジェ装う朝の霜 石巻市渡波/阿部太子
鉄橋を渡る終電虎落笛 東松島市あおい/下山慶子
賑やかさ戻りし庭や寒雀 石巻市向陽町/成田恵津美