俳句(1/26掲載)

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【石母田星人 選】


牡蠣をむく八十路のその手美しき   石巻市渡波町/小林照子

【評】喜怒哀楽など思いを直接言わないのが俳句。だがここは、美しき以外では表せなかったのだろう。牡蠣を手早く剥いて、乳白色の身でボウルを満たしてゆく。ご高齢の鮮やかな手際に圧倒されている作者。


瑞鳥やつがいで過ぎる初日の出   東松島市赤井/志田正次

【評】瑞鳥とは吉兆が起こる前兆として現れる鳥をいう。よぎったのは鶴か白鳥か。何ともめでたい。


綿虫の微かな青をいとほしむ   石巻市桃生町/西條弘子

【評】白い綿状物質で体を覆って飛ぶ虫。捕らえてみないと体のかすかな青には気付けない。少しの間、綿虫と戯れたことで童心がよみがえったのだろう。


初春の要のきつき舞扇   石巻市流留/大槻洋子

寒稽古きりりと的へ矢を放つ   東松島市あおい/大江和子

伊勢海老の腰の曲りの麗しき   石巻市丸井戸/水上孝子

混沌のひと世が暮れる嫁が君   石巻市蛇田/石の森市朗

寒月に万石浦の牡蠣肥る   多賀城市八幡/佐藤久嘉

賀状受く写真に遠き山河あり   松島町磯崎/佐々木清司

正月や曾孫と遊ぶゑびす顔   石巻市駅前北通り/津田調作

炉話やあれは確かに泣き黒子   石巻市中里/川下光子

冬耕の帰り仕度や夕茜   石巻市中里/佐藤いさを

ゆきうさぎ雪に埋れてしまひけり   石巻市小船越/芳賀正利

平和つぐ九条燦と初御空   石巻市広渕/鹿野勝幸

三が日激走伝える名調子   東松島市矢本/菅原京子

あの君が大人の顔して卒業す   石巻市流留/和泉すみ子

枯葉踏みふわふわ気分トレイル路   石巻市新館/高橋豊

味噌汁の熱さの馳走凍てる朝   石巻市小船越/堀込光子

冬ざれや小舟ゆらして風通ふ   石巻市門脇/佐々木一夫

毛糸帽少し深めに朝散歩   石巻市湊/斎田流雲

出稼ぎの父を待ち侘び年の暮   石巻市元倉/小山英智

初競りにいわし大漁初祝い   石巻市水押/阿部磨

切り株のオブジェ装う朝の霜   石巻市渡波/阿部太子

鉄橋を渡る終電虎落笛   東松島市あおい/下山慶子

賑やかさ戻りし庭や寒雀   石巻市向陽町/成田恵津美


川柳(1/26掲載)

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【水戸一志 選】


知らぬ子もみんなかわいい着ぶくれて   石巻市流留/大槻洋子

【評】下五「着ぶくれて」にほっこりする。たまたま見かけた光景だが、周りに子どもがたくさんいた頃の姿が甦ったのだろう。少子化が叫ばれて久しい。核家族時代の高齢者には、見知らぬ子すら抱き締めたいときがある。温かい目を注ぐだけで我慢する。


独り居のこたつに客だクマさんだ   石巻市鹿又/毛利みゑ

ほっかぶり木枯しさけて散歩する   石巻市新栄/堀内ひろ子

年の功財布の厚み診察券   石巻市湊/小野寺徳寿

賀状じまい電話にしたらしゃべり過ぎ   石巻市東中里/後藤佳代子

海鳴りが昭和時代を掻き立てる   石巻市水押/阿部磨

全世界まともな国が消えてゆき   石巻市新館/高橋豊

トランプの取説みてる石破さん   東松島市赤井/片岡シュウジー


短歌(1/19掲載)

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【斉藤 梢 選】


この年の喜怒哀楽の納まるか師走の夕空静かに広し  石巻市あゆみ野/日野信吾

【評】師走の夕空を見上げて「静かに広し」と作者は感じた。師走は一年を締め括る時期でもあるので、なにかと慌ただしい。けれども、この日の空は穏やかな表情をしていたのだろう。2024年の一年間には、さまざまなことがあり、心も揺れ動いたけれど「喜怒哀楽の納まるか」と詠むことで、この日は心が平らかに落ち着いていることが伝わる。夕空と対話している作者の姿が見えるようで、顔を上げてこの世界を見渡すと、見えてくるものが確かにあることを教えてくれる一首だと思う。


枯れ葉踏む我が足ふさぐは たれ と問う冬の小径の大人の童話  東松島市矢本/川崎淑子

【評】作者が歩く小径には枯れ葉が積もっていて、ともすればその葉が歩みを邪魔する。「我が足ふさぐ」のは、いったい誰?と問う時に「枯れ葉」は「枯れ葉さん」として、童話の中に登場するのかもしれない。感性豊かな作者の「大人の童話」の続きを読みたくもなる。「枯れ葉」を詠む時に、何を感じてどう詠むかを追究して工夫すると、こんなにも広がる歌の域。


人なみに年が明ければ八十九蝸牛(かぎゅう)のごとく断捨離はじむ  石巻市高木/鶴岡敏子

【評】「年が明ければ八十九」に、等身大の作者が表現されていて「蝸牛のごとく」に、本当の心情がこもる。歳を重ねつつもこのように詠み継いでゆくことで、確かめることができる真実があり思いもある。


冬の星凍れる空に煌めいて夕暮れの街切り絵の如し  東松島市赤井/茄子川保弘

【評】煌めいている冬の星の美しさ。「切り絵の如し」という捉え方がいい。冷たくて澄んだ空気が感じられて、冬だからこその街の佇まいが印象的だ。


まぶた閉じ狭庭に海は遠くとも葉ずれの音はときに潮騒  石巻市開北/ゆき

朝の陽に庭の木々の葉光ってる昨夜も雨か日毎に寒し  東松島市矢本/畑中勝治

最後かなと言いつつ弾むお年玉八十路過ぎての決りの文句  東松島市赤井/佐々木スヅ子

水鳥の子らの引率は美(は)しき父 四羽並びて締まりこぎ出す  東松島市矢本/田舎里美

コロコロと一人綾取り毛糸玉相手いなくて続きが出来ぬ  石巻市西山町/藤田笑子

夕日受け鮮やかに染まるもみじ葉の遂に散り敷く師走の夕べ  石巻市南中里/中山くに子

爽やかな朝風頬を撫でて行き散歩の我に励ましくれる  東松島市矢本/奥田和衛

人生の登り坂をば海に生き老いし坂道妻と歩みおり  石巻市駅前北通り/津田調作

普通に食べ普通にしゃべり普通とは何とすばらしきことであるかと  東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

コスモスの種を拾ひて微笑みしあの日散らした風はいづこへ  石巻市門脇/佐々木一夫

一瞬のブレーキ踏めず事故おこす同じ世代のかなしいニュース  石巻市桃生町/佐藤俊幸

遠浅の海まで走った浜はなく高くそびえる堤防のあり  石巻市流留/和泉すみ子

「美しく老いよ」の恩師のはなむけも生きてるだけでもう精一杯  石巻市向陽町/成田恵津美

遠き日にプレゼントされしセーター着て八十路の我は帰省の孫待つ  石巻市蛇田/菅野勇


川柳(1/19掲載)

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【水戸一志 選】


初詣自分の願い後になり   東松島市赤井/小池とも子

【評】3日付の石巻かほくに鹿島御児神社の初詣写真が載っていた。子どもと大人が並んで柏手を打っている。それぞれどんな願い事をしたのだろう。自分の事は最後でよい。もっと大切なことがあるとも、あるでしょうとの語りかけにも読めて、温かい。


紅白で初めましての歌多し   東松島市赤井/志田正次

乙巳(きのとみ)の福を呼べるか年女   石巻市垂水町/かとれあ

年玉の集金の群れ二波三波   東松島市赤井/佐々木スヅ子

孫襲来じいじばあばの連呼あり   東松島市矢本/菅原信之

また一つ歳が増えたし皺も増え   東松島市矢本/奥田和衛

キャベツ高サマを付けてもいいですか   石巻市向陽町/佐藤功

北風を耐え抜く絵馬が愛おしい   石巻市広渕/桂谷和子


コラム: 蛇の話

 爬虫(はちゅう)類は苦手です。皆さんはどうでしょうか。

 洋画「天地創造」(1966年)で蛇が出てくるシーンがあります。人間をそそのかして「禁断の木の実」を食べさせる場面です。神が造られた野の生き物のうちで、蛇が最も狡猾でした。そこで、主なる神は蛇に言われたのです。「おまえは、この事(人間をそそのかした行為)をしたので、全ての家畜、野の全ての獣のうち、最も呪われる。おまえは腹で、這い歩き、一生ちりを食べるであろう」

 普通、私たちは蛇のことを英語で snake と記憶していますが「蛇」は serpent と表記されています。イヴを巧みにそそのかす悪知恵ある存在として登場。恐怖の蛇が嫌悪の感情あたりと結ばれた場合には、しばしば悪知恵・狡知(こうち)といった色付けをされることになります。

 一方、我が国では蛇は縁起の良いものとして重宝がられているようです。

 卑近(ひきん)な例として「蛇田」という地名があります。最初は何という嫌な地名だと思っていましたが、とんでもない間違いでした。ヘビは脱皮を繰り返すため「復活と再生」を連想させ、強い生命力がある縁起の良い動物と考えられていたのですね。加えて餌を食べなくても生きながらえるので「神の使い」としても崇(あが)められます。

 洋の東西、いろいろあるんですね。どちらが良いとかではなく、それぞれの歴史を見つめることが大事だと思います。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)


俳句(1/12掲載)

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【石母田星人 選】


初日記海原白く船出かな   石巻市開北/ゆき

【評】新年を迎えて初めてつける日記。まっさらなページを前にすると心が改まる。中七以下「海原白く船出かな」は、未来への清新な一歩を感じさせる。


藤原の落人の浜牡蠣を剥く   石巻市蛇田/石の森市朗

【評】大須浜のことだろうか。上五中七の「藤原の落人の浜」だけで十分にイメージが膨らみ、浜の景が見えてくる。浮かび上がった視覚に、牡蠣剥き作業の聴覚が重なることで一層の奥行きが生じている。


冬枯れやじたばたせずに待つ心   石巻市中里/川下光子

【評】冬枯れの木の多くは生きている。春になると勢いを取り戻す。焦らずに待てと教えてくれる木々。


気嵐を巻き込みながらいさり舟   石巻市門脇/佐々木一夫

船大工生きる証しのあかぎれか   石巻市中里/佐藤いさを

初御空戦なき世をいとほしむ   石巻市広渕/鹿野勝幸

震災の月命日の寒さかな   石巻市元倉/小山英智

騎馬像の政宗公も息白し   石巻市小船越/芳賀正利

壺の碑を囲む風音冬に入る   石巻市桃生町/西條弘子

落ち葉道サクサクサクと三拍子   石巻市湊/斎田流雲

お社へ傾斜あかるき冬木立   石巻市流留/大槻洋子

寒造り醪に乗せる杜氏謡   石巻市丸井戸/水上孝子

小春日や発芽させては命継ぐ   石巻市桃生町/佐藤俊幸

水呑みの獣の道に冬木の芽   多賀城市八幡/佐藤久嘉

前向きにとらえる癖や碇星   東松島市矢本/菅原京子

雪虫や蔵王遥かに浮かびおり   石巻市小船越/堀込光子

十二月返事の来ない手紙書く   松島町磯崎/佐々木清司

ふうふうと口をすぼめて冬至粥   東松島市赤井/志田正次

父母におにぎり二つ今年米   石巻市新館/高橋豊

遠目にも南天の実の際立ちて   石巻市向陽町/成田恵津美

厚き雲流れる日々の炬燵かな   石巻市駅前北通り/津田調作

青春の彼への思い枇杷の花   石巻市のぞみ野/阿部佐代子

新米の香り漂う晩支度   石巻市桃生町/西條和江

日捲りは年を越えれば若返る   石巻市水押/阿部磨

冬の月ひかり零るる地にも降る   東松島市矢本/田舎里美


川柳(1/12掲載)

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【水戸一志 選】


北風が串刺しイワシ味醸す   石巻市水押/阿部磨

【評】一番マグロに2億700万円の値がついた。縁のない話ではないか。対極にいるのはイワシ。大量に漁獲され、値段も超安い。今の季節、生のイワシを一晩風に当ててから焼くと、確かにうまみが違う。高いマグロよりこちらの一句に生唾が出る。


新年は道草せずにやってくる   東松島市矢本/畑山講也

願い事あれもこれもと指たりぬ   石巻市西山町/藤田笑子

雪女手持ち無沙汰で空眺め   石巻市不動町/新沼勝夫

闇バイト元を断たねば無くならぬ   石巻市大街道東/岩出幹夫

友よ友夫(つま)いる幸を大切に   石巻市流留/和泉すみ子

昭恵さんトランプ大社掃き清め   東松島市赤井/片岡シュウジー

わが郷土真珠の町になる予感   石巻市あゆみ野/日野信吾


短歌(12/29掲載)

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【斉藤 梢 選】


陽だまりで葉ぼたんビオラ寄せ植えし迎える巳年の平和を祈る   石巻市錦町/山内くに子

【評】冬の「陽だまり」の暖かさ。作者は陽射しがあることに感謝しながら、寄せ植えをしている。「葉ぼたん」と「ビオラ」の取り合わせが冬の季節を伝えていて、植えている姿が見えるようだ。これからの冬の日々を植物たちと共に過ごそうという心持ち。そして、作者は心の中で祈る。祈りは、なかなか声に出しては言えない。だからこそ詠むのだろう。誰でもが平和を願うのだけれども、予期せぬ自然災害や事故、事件などが起こった今年を振り返り、あらためて「平和」のありがたさを痛感する師走。切に祈る「平和」。


顔に粉それぞれ違う幼子の個性むき出しのクッキーづくり   石巻市湊東/三條順子

【評】「顔に粉」の初句で、夢中になってクッキーを作っている様子が想像できる。幼子の小さな手がクッキーの生地をこねて、形を作ってゆくのを見守る作者。「個性むき出し」という捉え方と「それぞれ違う」の表現が呼応していて、幼子の個性を尊重する思いが一首に満ちる。創作の楽しくてゆたかな時間を残す歌。どんな形のクッキーが焼き上がったのだろう。


りんどうよ咲けば紫庭の中 秋を楽しむように咲きおり   石巻市駅前北通り/津田調作

【評】庭に咲く「りんどう」の紫。蕾の時と咲いた時の雰囲気が違う「りんどう」。親しみをこめて「りんどうよ」と詠む初句がいい。下の句のような思いに至る作者の植物への優しい眼差し。秋がよろこぶ「紫」。


はるかな日従姉妹が母に編みくれしセーターは今吾(あ)を暖める   石巻市流留/大槻洋子

【評】この歌は読者をも暖めてくれる。「はるかな日」と「今」を結ぶ手編みのセーター。時が流れても残るものがあり、残しおく大切なものがある。


紺碧の海にいだかれ育つ海苔厚き黒藻が豊かにゆれて   石巻市門脇/佐々木一夫

早世の弟偲び今日の日は残したシャツ着て思い出の中   東松島市矢本/畑中勝治

病み終えていつもの靴にフィットした一歩前出て小石蹴飛ばす   石巻市二子/北條孝子

憂い事消えて見上げる冬の空舞う粉雪も花びらに見ゆ   東松島市赤井/佐々木スヅ子

新米の一粒ずつに力あり日本の食ぞ天高き秋   石巻市あゆみ野/日野信吾

アルバムを捲りて老いを感じつつ若き姿に時間(とき)が甦る   女川町浦宿浜/阿部光栄

看護士の名を覚えるは特技なり呼びて親しみ深くなりたり   東松島市野蒜ケ丘/山崎清美

病室の窓の下行く夜汽車見る仙石線か石巻行きの   石巻市羽黒町/松村千枝子

夕日受けもゆる紅葉の鮮やかさ吾(あ)の終生もこうありたきに   石巻市南中里/中山くに子

極月や松市の朝威勢よし場内に響く競り人の声   東松島市赤井/志田正次

実家からの甘い香りのラ・フランス伝わる真心かみしめほおばる   石巻市西山町/藤田笑子

朝の駅靴音響く人の群れ目覚めた街が動き出すなり   東松島市赤井/茄子川保弘

隣人にもらいし里いも煮っころがしに亡き夫の好物仏前に供う   石巻市高木/鶴岡敏子

澄みわたる入り日に映える飛行機雲くっきり描く一直線を   石巻市わかば/千葉広弥


川柳(12/29掲載)

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【水戸一志 選】


神の子の花道険しあと3勝   石巻市蛇田/菅野勇

【評】楽天を去った田中将大投手の巨人入り。クリスマスイブに合わせて発表された。やきもきしながら見守ってきたファンも一安心している。しかし、日米通算200勝まであと三つが険しいことには変わらない。神の子を信じたい作者の思いが伝わる。


投稿1年禁句珍句の筆おさめ   石巻市水押/小山信吾

十二月おアシ出払い首に枷   石巻市須江/木村恵子

生き抜いて巳年7回巡り来る   石巻市水押/阿部磨

四苦八苦する居酒屋のタブレット   石巻市蛇田/大山美耶紀

冬ごもり出ておいでよと寒椿   石巻市蛇田/佐藤久子

リハビリの一歩明日は二歩三歩   東松島市矢本/後藤新喜

石破さん昭恵夫人に先越され   石巻市不動町/新沼勝夫


コラム: アルバイト考

 最近「闇バイト」が話題になっています。前々回も述べた通り、ドイツ語で「仕事や労働」を意味する Arbeit (アルバイト)に由来します。

 学生時代、実にさまざまな「バイト」をしました。家からは十分な仕送りがあったのですが、「社会探訪」も兼ねて行ったのです。仕事は大学の学生課を通じて来たものでした。ビルの掃除から家庭教師までいろいろやりました。「社会勉強」としてはビルの掃除です。早朝、ビルを使う仕事が始まる前、モップで階段などをきれいに拭くのです。掃除のおばさんたちに気合をかけられながら。

 忘れられないのは「通訳」でした。田舎から出て行って右も左も分からないのに、行ったこともない京都へイギリスBBC放送の特派員を案内するという「離れ技」をしたのです。途中、新幹線の車両の中で、その特派員からネクタイの締め方を教わりました。ネクタイをする時、今でもこのことを思い出します。よくそんなことができたものです。

 この Arbeit はかつてポーランドのアウシュビッツ強制収容所(第1収容所)のアーチの門とも関係していたことがあります。ナチス・ドイツが、「働けば自由になる」というユダヤ人を収容する強制収容所のスローガンおよび強制収容所のアーチの門の文字に用いたのです。

 数年前、私はこの門の前にたたずみました。悲しみと、何とも言えない感情に襲われたのを覚えています。

大津幸一さん(大津イングリッシュ・スタジオ主宰)