vol.13

健康経営の取り組みが
企業・社会の未来を築く

従業員の心身の健康づくりを推進することで、生産性の向上、優秀な人材確保、離職率の低下、企業のイメージアップなど、さまざまなメリットがある「健康経営」。企業の間ではスタンダードとなりつつあります。今回は健康経営の現状や今後の課題、地域課題に着目した取り組みをご紹介します。

INTERVIEW

実行のメリット
明らかに。
経営者の決意が鍵

辻󠄀 一郎 教授

東北大学大学院医学系研究科
公衆衛生学分野

離職率の低下顕著 
認定数は順調に増加

経済産業省が2017年に「健康経営優良法人認定制度」を創設してから5年以上が経過し、その間積み上げられてきたデータから健康経営を行うメリットが明らかになってきています。例えば離職率(図①)は、一般労働者の全国平均11.4%に対し、健康経営優良法人では5.4%と2分の1以下。また、有給休暇取得率(図②)は19年の全国平均が56.3%。それに対して健康経営優良法人の平均が65.6%です。健康経営優良法人は、就活生からの人気が非常に高いとのデータもあり、そのようにして集まった優秀な人材が、しっかりと企業に定着し休暇を取れているということです。

では業務内容はどうかというと、健康経営銘柄に選定された企業の平均株価は、東証株価指数を上回る形で推移しています。健康経営優良法人認定数を見てみると、21年と22年の全国での比較で、大規模法人が1801社から2299社、中小規模法人が7934社から12255社と順調に増えています。宮城県では、大規模法人は2社増加とやや停滞ですが、中小規模法人は168社から266社と全国に引けを取らない増加数です。健康みやぎサポーターズの取り組み、協会けんぽ宮城支部のサポートの効果が表れていると思います。

図1・2 出典:経済産業省資料より作成

三つの要素が追加 
地域貢献目指す動きも

健康経営の裾野拡大を図るため、21年度から健康経営度調査に新たに加わった展開が三つあります。①情報開示の促進 ②業務パフォーマンスの評価・分析 ③スコープ(範囲)の拡大です。①は調査の評価結果(フィードバックシート)や、健診受診率、喫煙率、高ストレス者率などの定量的指標を積極的に開示すること、②は労働生産性に影響を及ぼす三つの指標「アブセンティズム」「プレゼンティズム」「ワークエンゲージメント」を企業自らが測定し評価・分析を行うことです。そして③は健康経営の範囲を、取引先、グループ企業、地域など、社会全体に広げる動きの促進。企業が自社の商品・サービスを通じて社会の健康に寄与することを、健康経営として意味付けようというものです。自社だけが良ければ、ということではなく、地域全体に貢献するところを評価しようという動きは大きな変化です。

メンタルヘルス対策は 
コロナ禍喫緊の課題

コロナ禍が2年以上続いた現在、その影響が最も深刻なのがメンタルへルスの問題です。世界でも20年の1年間で、うつ病性障害は5320万人増加しています。この数字は前年比28%増。国内でも若年層や女性の自殺者が増えてきています。コミュニケーションの不足によりメンタルが不調となり、企業の活力も低下するため対策は喫緊の課題です。私自身の体験として、コロナ禍でオンライン会議が増えた結果、出張が減り時間を有効に使えるというメリットを得た一方、実は会議の前後の雑談タイムが重要だった、という実感があります。インフォーマルなコミュニケーションをオンラインでも活発にして、ワークエンゲージメントを高めるにはどうしたらいいかを考える必要が出てきているのです。その方法を属人的なものとせずカウンセリングのスキルとして捉え、中間管理職以上の人々に教える機会を設けること。そこに企業も投資するべき段階に来ていると思います。

健康経営はすでにトレンド以上のものになっています。ただし、始めるには経営者の決意が何よりも重要です。やろうと決断すればノウハウはたくさんあります。自社の従業員の健康問題は何か、経営陣に従業員を交えて車座で考え、最も大事な一つ、二つの問題に絞ったら、そこから先は外部のサポートなどを利用するとよいでしょう。まずは小さなこと一つからでも始めていただきたいと願っています。

INTERVIEW

管内の健康理解推進へ。
独自の工夫凝らす

宮城県 塩釜保健所

生活習慣の特徴に着目 
異なる健康課題啓発へ

県塩釜保健所は、管内の企業、住民に健康への理解を深めてもらうため独自の取り組みを行っています。同保健所の管轄地域は塩釜、岩沼、黒川の3圏域の5市7町1村にわたります。それぞれ環境の異なる地域へ効果的に健康情報を伝えていくことを試行錯誤しながら進めてきました。

その中で黒川地区にメタボ該当者の割合が多いことに着目し、2014年から3年間、食生活や運動習慣についての調査を行ったところ「夕食時間が遅い」などの特徴が判明しました。

16年に宮城県で「スマートみやぎ健民会議」がスタートしたことを機に、塩釜、岩沼地区でも健康課題調査を実施。塩釜地区は「朝食欠食者が多い」、岩沼地区は「夕食後の間食や早食いが多い」と、各地区のメタボにつながりやすい生活習慣を絞り込むことができました。その結果を受け18~19年度には各地区向けの健康課題をキャッチコピーにしたポスターを作成・配布。それぞれの生活習慣の特徴にピントを絞り、一歩踏み込んだ啓発を行っています。

健康づくりの取り組み 
広報紙で情報共有

大崎保健所と連携して毎年実施する「歩数アップチャレンジ」は、18年から黒川・岩沼地区、19年から全管内の事業所へ参加を呼び掛け、2カ月間の歩数を3人1組のチームで競うもの。昨年コロナ禍の実施では「事業所内で励まし合うことで会話、交流が生まれた」などの声も多く聞かれ、社内のコミュニケーションツールとしても役立てられました。歩数アップチャレンジは今年度から全県の取り組みに事業を拡大。7月から参加者募集が始まる予定です。

管内で健康づくりに積極的に取り組む事業所の事例は、同保健所が編集・発行する広報紙「けんこうエクスプレス」にさまざまな健康情報とともに紹介されています。特にコロナ禍のこの2年間は健康の大切さを届ける貴重なツールとなりました。従業員の健康と企業の成長が切り離せない健康経営の考え方にしっかり結び付けていくことを目指しています。


塩釜地区、岩沼地区、黒川地区それぞれの健康課題を啓発するポスター

健康にいきいきと働ける職場をつくる健康経営勉強会

できることから始めよう、
健康経営!

従業員の健康管理を経営的な視点で考え、実践する「健康経営」を分かりやすくご紹介する勉強会です。
企業経営者や労務管理の方など、健康経営に興味のある方はどなたでもご参加いただけます。

健康経営勉強会

開催日時 2022年8月2日(火)13:00~14:30予定
(会場受付12:30~) 会場&オンライン同時開催参加費無料(要申し込み)
対象 企業の経営者・健康管理者ほか
健康経営に興味のある方
会場参加 河北新報社別館5階ホール
※応募多数の場合は抽選となります。
WEB参加 ライブ配信

7月上旬 詳細告知予定

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興味のある方はぜひご登録ください。

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※取材は新型コロナウイルス感染防止対策を徹底し実施。取材終了後にマスクを外し顔写真の撮影を行いました。

2022年6月20日付 河北新報朝刊_特集紙面 Vol.13より転載

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このページの内容は河北新報に掲載された特集紙面を一部再編集してご紹介しています。
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