vol.19
「健康経営®」は、従業員の健康保持・増進の取り組みを企業の将来の収益性を高める投資と考え、健康管理を戦略的に実践すること。業績や採用などでその効果を実感している企業が増えています。河北新報社では、経営者や労務管理者を対象に毎年実施している健康経営勉強会を今年も開催。有識者の基調講演をはじめ、最新の健康経営を紹介するパネルディスカッションなどが行われました。
東北大学名誉教授
同大学院医学系研究科
公衆衛生学客員教授
辻󠄀 一郎 教授
健康経営の考え方が国内で初めて提唱されて17年。今では多くの大企業、中小企業が企業価値を高める経営の常識として取り組んでいます。宮城県内の企業間でも健康経営優良法人を目指す動きが活発で、2023年の都道府県別認定数の前年度比増加率は全国第4位と、着実に根付いてきていることが見て取れます。
今後、企業が向き合うことになる社会課題が、団塊ジュニア世代が65歳以上になる「2040年問題」。人口減少、ソーシャルキャピタルの脆弱化、労働力不足、購買力の低下などにより、国、地域、市場が縮み、物流も遅れがちになるでしょう。日本社会が“ジリ貧な社会”になっていくわけです。そんな時代で企業が生き残るために重要なのが、従業員、取引先、消費者などステークホルダーとの連携・協働です。健康経営を実践して世間から優良法人と認識されることによって、多様なステークホルダーから評価が得られたとの声も上がっています。
私が評価委員長を務める厚生労働省の「健康寿命をのばそう!アワード」では、生活習慣病予防の優れた取り組みを行っている企業、自治体、団体を毎年表彰しており、それらの中に健康経営のヒントが多くあると感じます。昨年最優秀賞に選ばれた運輸会社は、社内に向けて「運動」「食」「禁煙・受動喫煙防止」「健診の推進」の4つの分野の健康づくりを実施しました。加えて画期的だったのは社内の健康サポートで培ったノウハウを、地域に役立てた点です。行政や大学とも連携し、住民に向けて健康教室の開催や健康栄養無料相談を実施するなど、地域の問題解決に貢献しました。
自治体の受賞例もあります。17年優秀賞の大分県は企業、大学、報道機関、経済団体などに連携を広げて、県一体で健康寿命日本一を目指しています。その中でも新たな金融商品の開発や循環型ファンドの創設で、健康づくりを起点に資金を循環させる事例には感心しました。
最後にご紹介するのは、地域介護予防の拠点「通いの場」(※)を活用した先進事例です。愛知県豊明市では、スーパー銭湯や喫茶店、車のショールームなど市内のさまざまな場を通いの場にして、企業PRに活用しています。民間企業が介護予防に貢献しながら、同時にビジネスにも生かしているわけです。さらに同市では企業の協賛金でオンデマンド型の乗合送迎システムを作り、住民サービスと事業を結び付けています。地域社会と地域経済を共存共栄させる優れた取り組みです。
今後の健康づくりは連携と協働が鍵です。地域経済と協働し地域社会と組むことで、経済が活性化し、人と組織が広がりお金が回ります。他と連携して地域の総力で健康寿命の延伸、地域社会の持続可能性実現を目指すことが、これからの企業のあり方、行政のあり方だと考えています。
※地域住民同士が気軽に集い、活動を企画するふれあいを通して「生きがいづくり」「仲間づくり」を広げる場。国の政策で拠点づくりが進められ、21年度は全国12万カ所で197万人が参加。
株式会社 復建技術コンサルタント
総務人事部 部長
全国健康保険協会宮城支部
(協会けんぽ)
企画総務グループ
ヘルスマネジメントコネクト
健康経営研究所 所長
北村 まず取り組んだのが健診の受診率100%の実現と維持です。受診を上司から強く勧めてもらうなどして推進し、達成、継続できています。また決めた時間にパソコンが自動でシャットダウンするようにして、長時間労働の改善にも取り組んでいます。働き方改革=働く側の意識改革でもあると考え、限られた時間の中で成果を出す意識を、従業員に持ってほしいとの思いもあり踏み切りました。今ではだいぶ帰宅時間も早くなっています。
高橋 「職場健康づくり宣言」を積極的に推進しています。事業主に健康経営に取り組むことを宣言していただき、エントリーシートを出してもらうと、健康優良法人認定の必須項目が一つ埋められます。さらに宣言していただいた事業者に、従業員の健診結果を見える化した事業所カルテを提供したり、出前健康づくり講座を実施したりしながらサポートを行なっています。
佐藤 健康の定義の中の、心身の健康に加え社会的、つまりお金や人間関係の健康を伝えることを大事にしています。健康経営を社内に浸透させるには、従業員一人一人が必要性に気付き、現場で実践していけるようになる取り組みが不可欠。大切さを実感してもらうために、会社経営を疑似体験する「健康経営ゲーム」や、自身の強み、弱みを知って仕事に生かす「脳傾向性診断テスト」の体感型シミュレーションを提供しています。
北村 採用の際、毎年数人の学生から健康経営優良法人認定を取っていることが志望動機に上がり、採用力の向上を感じます。社内的メリットは健康へのリテラシー向上。健診で保健指導対象になった従業員が、自発的に運動を行って改善した例なども見られ、意識改革につながっています。現在、禁煙対策に継続して取り組んでおり、喫煙率は年々低下中です。今後は運動習慣につながる施策を取り入れていきたいです。
高橋 全国で高齢化が進み年々医療費が上がっている中、宮城県は「メタボ県」と言われ医療費上昇のスピードも速い。持続可能な社会を目指す上でも健康経営には社会的メリットがあります。大企業では当たり前になった健康経営が、中小企業でもそうなるよう、宮城支部の中小企業4万社全てに職場健康づくり宣言していただくことを目指し、優良法人認定をとれる企業になれるよう支えてまいります。
佐藤 健康経営優良法人認定を取っている企業でも、実際は従業員の食生活などに問題がある例もあり、健康経営は社内全体に浸透させないと意味がないと感じています。従業員自ら「うちの会社は健康経営に取り組んでいる」と発信するような関わりが大切。弊社が用意している事例やサポートメニューを多くの企業に活用していただき、結果をまた発信して健康経営の普及につなげていきたいと考えています。
第2部の会場には、協会けんぽの資料ブースと脳傾向性診断テストの体験コーナーを開設。このテストは、脳科学と心理学の知見、体験から開発されたもので、160の質問への回答から自分の脳の思考傾向が分かり、考え方や行動の特性、強みが数値で表される。体験した参加者の一人は「自分を客観的に知ることができ強みを再確認できた。今後の自信につながる」と話した。参加者の交流の時間も設けられ、コーヒーを手に情報交換の輪が広がった。
別会場では健康経営ゲーム体験が行われた。これは、会社運営を疑似的に体験しながら、従業員の健康が業績に影響することを体感できるシミュレーション型ゲーム。会場では社長や役員、従業員などの役割を与えられた参加者らが共にゴールを目指した。終了後、社長役の男性は「従業員の健康に気を付けながら経営する苦労が理解できた」と話し、従業員役の女性は「実績を追い過ぎて、自分の健康を犠牲にしてしまった」と反省するなど、仕事と心身の健康の関係性を実感していた。
※健康経営勉強会は10月24日(火)に開催しました。 運営協力:ヘルスマネジメントコネクト
2023年11月22日付 河北新報朝刊_特集紙面 Vol.19より転載
このページの内容は河北新報に掲載された特集紙面を一部再編集してご紹介しています。
河北新報掲載の特集紙面は以下よりダウンロードできます。