vol.20
経済産業省が2017年に「健康経営優良法人認定制度」を創設してから今年で7年になります。健康経営®に取り組む企業は年々増えスピードも加速。それに伴いさまざまなデータの集積が進んでいます。今回は、全国の企業から集めた企業情報のデータベースを保有する「帝国データバンク仙台支店」に、同社が分析する健康経営の現状や、今後の展望などについてお聞きしました。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
株式会社帝国データバンク仙台支店
初めに、帝国データバンク仙台支店情報部長の中村肇さんから健康経営の現状分析について聞きました。まず中村さんが示したのは経産省の資料で「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」の都道府県別認定法人数を、2023年と22年で比較したデータ。「この1年での宮城県の伸び率は27.7%。全国第4位となっており、県内企業の健康経営への注目度が高いことが伺えます。特に、従業員一人当たりの役割が大きい中小規模法人部門の伸びが顕著です」。また、全国的にも優良法人認定企業数の伸びは順調で、42の都道府県で一昨年から昨年にかけての伸び率がプラス。こうしたことからも企業が健康経営に積極的なことが分かります。その要因の一つに中村さんが挙げるのが慢性的な人手不足です。「新卒に限らず、いい環境で働きたいというニーズが年々高まる中、認証制度にかなりのアピール力があると考える企業が多い。その表われではないでしょうか」
同社が独自に実施した健康経営優良法人認定企業へのアンケート調査からも興味深い結果が出ています。「すでに取り組んでいる項目」では健康診断の受診義務化、感染症対策の実施が上位の中、メンタルヘルス対策の導入も入ってきており、また「これから重点的に取り組む予定の項目」ではトップ2がメンタルヘルス対策に関する項目です。中村さんは「コロナ禍で在宅勤務など働き方が変化し、それに起因する心身不調が顕在化したことから、企業がその対策を打とうとする意識が高まっているのでは」と推察します。
ただ、規模の小さな企業がメンタルヘルス専門の担当者を常駐させることには難しさも。そこで経済産業省では「令和5年度ヘルスケア産業基盤高度化推進事業」の一環として、健康経営を志向する企業が心の健康保持・増進に関する民間サービスを、適切に選択できるための仕組みづくりに着手しています。「この取り組みが今後進めば課題解決につながるでしょう」と中村さん。また、企業内の健康データ管理についても個人情報を扱うため、管理の方法で悩む担当者は少なくないようです。近年は企業向け健康管理システムサービスが増加しており関心も強いので、本格的に普及すればさらなる取り組み推進の一助になると、期待が高まっています。
実際に認定取得に取り組んだ結果、実感する効果については「企業イメージ・企業ブランド価値の向上」がトップ。健康経営への取り組みが「従業員を大切にする会社」というイメージづくりに寄与していることが伺えます。一方で、多くの企業が課題に挙げる「人材の採用・定着促進」に関しては、効果を感じたとの回答は3割弱。「取り組み開始から日が浅い企業へのアンケートであったことに加え、求職者側の認知度にも関わりがあるのでは」と中村さん。取り組みが進み認知が広がって人手不足解消への効果が実感されることが、今後の健康経営浸透の鍵になりそうです。
帝国データバンクでは健康経営などをはじめ、さまざまな経営戦略のベースとして「知的資産経営」の視点を持つことを企業に提案し、支援を行っています。知的資産とは、社屋、設備、商品などと違い、表に見えない資産のこと。たとえばノウハウ、人材、人脈、組織力などのことで、氷山でいえば海面下に隠れている部分です。これらを生かして業績向上に結び付ける経営が知的資産経営です。仙台支店長の岩城大一さんは「知的資産経営を行うことにより、自社の強み、特徴、課題を捉え、進むべき方向がはっきりと見えてくると考えています」と、その意義を説明。当然その対策の中には健康経営もあり、その内容が的確かどうかを見つめなおすきっかけにもなる、と強調します。「健康経営が成り立つのも企業の持続的成長があってこそ。自社の知的資産、強みや課題をよく理解した上で、そこをベースにして健康経営を考えると、よりふさわしい取り組みができるはずです」。健康経営への取り組みがすでに進んでいる企業にとっても、“現状のおさらい”の意味で、知的資産経営への理解を深めることは今後の重要な視点となりそうです。
2024年2月22日付 河北新報朝刊_特集紙面 Vol.20より転載
このページの内容は河北新報に掲載された特集紙面を一部再編集してご紹介しています。
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