河北新報特集紙面2021
2022年4月13日 河北新報掲載
地域の躍動を知り、共に描く未来を。
地域の躍動を知り、
共に描く未来を。
復興の歩みとともにさまざまな活動を展開してきた
今できることプロジェクトは2021年度で10年目。
「震災の記憶と教訓の継承」を第一の命題に掲げながら、
地域の未来を切り拓く人々や団体に寄り添い、
現地で学び、伝える取り組みを実践してきました。
今回掲げたテーマは4つ。
河北新報の読者、賛同企業の方々、たくさんの一般参加者とともに
得られた成果の数々をこの紙面で報告します。
- プロジェクトは新たなフィールドへ。
- 2021年度におけるプロジェクトの活動はいったん完了となりますが、2022年度も、私たちが今できることを見いだし、気付きを得る新たな学びの場や体験ツアーなどを企画中です。震災発生から10年の経過を踏まえ、プロジェクトの継続を通してその先にある未来を目指すために何ができるかを皆さまと一緒に考え、その思いを共有しながら、より大きな輪を広げていきたいと考えています。
2022年度の活動を始動する際には、また、河北新報紙面とホームページ、フェイスブックでお知らせいたします。リアルタイムの情報は、フェイスブックの記事でお伝えしていきますので、引き続きご覧いただけますようお願いいたします。
- 次世代の被災地視察教育支援
- 被災地の今を感じて学んだ中学生記者たちが挑んだ新聞づくり
前回、大きな反響を呼んだ中学生記者による「震災伝承新聞」。2021年度は、秀光中学校・仙台市立宮城野中学校・尚絅学院中学校の生徒28人が復興の現場を訪れ、関係者へ聞き取り取材を行い、記事執筆に挑戦しました。記者経験のあるプロジェクトメンバーの指導の下、訪問先で感じたことや学んだことを記事に織り込み、河北新報別刷紙面として2月11日に発行。その後、各校で発表会が行われ、活動の振り返りを行っています。
「震災伝承新聞」は、宮城県内約160の中学校をはじめ、 東北の震災伝承施設、宮城県外の災害に関する研究を行う大学や団体、東京都・池袋「宮城ふるさとプラザ」などに配布。2011年5月に山元町へ派遣され、被災児童のケアに当たった養護教諭の越智敦子さんが勤務する愛媛県今治市の菊間中学校では、紙面を活用した特別授業も行われました。この総集編に当たり、中学生記者に同行した先生と、紙面を読んだ若者たちから感想が寄せられましたのでご紹介します。
●生徒たちの取材に同行して
尚絅学院中学校
加藤 綾惟 先生
貴重な経験をする機会を与えていただき、大変感謝しております。生徒たちは、震災当時3歳でした。記憶に残っている人もそうでない人もいましたが、自分たちに何かできることはないかと考えて参加を決めたようです。現地に行ってみると、想像よりも整備された街並みに驚いた様子でしたが、体験談やこれまでの経緯を聞いて震災の恐ろしさを知り、後世へ伝えていくことの大切さを学ぶことができました。今回取材をしたのは震災の一部です。生徒たちにはこれからも〝今できること〟を考え、自ら発信していってほしいと思います。
●震災伝承新聞を読んで
今治市立菊間中学校 2年
重見 倫花 さん
日常をすべて奪った東日本大震災。宮城県女川町を取材した記事の中にあった「ただいまと聞きたい声が聞こえない」という俳句にショックを受けました。私は、両親に「いってらっしゃい」と言われても、当たり前のように無視をし、それを思春期のせいにしていた愚かな自分に気付かされました。私を思って言ってくれている言葉が飛び交う素敵な日常を大切にしたいと思います。
今治市立菊間中学校 2年
渡邊 悠楓 さん
「近助」という言葉の意味は知っていましたが、私は人と関わることが苦手で、地域の人と積極的に話せておらず、コミュニティーから遠ざかっていました。でも、今回この記事と出合い、母と話し合ったことで、近助の大切さを理解することができました。地域の人と関わることは、自分の命をも守ることにつながるので、積極的に地域の方と交流していきたいです。
仙台市立中田中学校 2年
鈴木 順正 さん
今回の震災復興プロジェクトの活動を知り、非常に有意義だと感じました。震災の記憶があまりない今の中学生が震災の実態を知り伝えていくことにより、一人一人感じるものは大きいと思います。私は中学生の視点だからこそ考えられる未来の在り方を大切にし、実際に復興へ歩んでいる方の話から学べる教訓や精神を未来に還元していきたいです。そして、この活動で震災を忘れないという思いがより広まっていってほしいです。
東北学院大学 2年
五十嵐 太郎 さん
震災当時は幼い年齢だった中学生の皆さんが「自分ごと」として震災に向き合う姿に感銘を受けました。私自身、震災復興ボランティアの経験があり被災地の現状とそこからどう復興するか? という難しさを感じたことがあります。そのような課題に積極的に取り組む必要があるのは今回新聞を作成された中学生の皆さんをはじめ、私たちのような若い世代だと感じています。強い東北を作るために「競争」から「共創」へ、一緒に頑張っていきましょう!
※学年は2022年3月現在
岩沼市で取材を行った秀光中の中学生記者
女川町で取材を行った尚絅学院中の中学生記者
山元町で取材を行った宮城野中の中学生記者
- 親子で学ぶ防災学習支援
- 防災スキルを楽しい体験を通じて身につけたデイキャンプ
昨年11月13日に、20組の親子が参加した東松島市「親子で楽しく防災を学ぶデイキャンプ」は、被災して廃校となった野蒜(のびる)小学校の建物を再活用している「KIBOTCHA(キボッチャ)」が活動場所となりました。この施設を運営する貴凛庁代表の三井紀代子さんの案内で、館内の見学と震災語り部の講話、そして、「NISHIKIYA KITCHEN(ニシキヤキッチン)」の協力によるレトルト食品を活用したローリングストックのレクチャーなどが行われ、大災害への心構えと日頃の備えの重要性について学ぶ貴重な機会になりました。親子で力を合わせて臨んだのが、屋外でのアウトドア調理体験。火起こしと炊飯で苦労した後は、おいしいカレーでみんな笑顔に。さらに、防災マップづくりや保坂俊彦さんの指導によるサンドアートのワークショップにも挑戦しました。三井さんはこの日を振り返り、「防災とSDGsをキーワードに、和気あいあいと活動に取り組んでもられてうれしいです」と笑顔で語ってくれました。
NISHIKIYA KITCHENのレトルトカレーでランチ
写真左:貴凛庁代表の三井紀代子さん
写真右:親子で火起こし体験にチャレンジ
お絵かきやサンドアートもできる図工室
そして今
そしてこの春、KIBOTCHAは、〝こども未来創造校〟から〝未来学舎〟としてアップデート。昨今のコロナ禍から得た教訓により防災の捉え方の幅を広げ、カリキュラムやアクティビティーの充実を図りました。講師を招いてボディメイクを実践する本格的なヨガ教室は、美容と健康がテーマ。竹明かりや竹箸などの工作に取り組める「図工室」では、自由な発想と創造力を養います。三井さんは「被災したこの地から防災教育を発信する当初からの思いはそのままに、子どもだけでなく大人も多くを学び、楽しめる施設を目指していきます」と今後の展望を話してくれました。
未来学舎KIBOTCHA
https://kibotcha.com/
- 気仙沼の新たな特産発信支援
- 後世に残すべき教訓を受け継ぎながら新たな実りの喜びも体感
36人の参加者が気仙沼市を訪れ、1月22日に実施したのは「防災を学び、農業と漁業の生産現場を巡るバスツアー」。気仙沼市波路上(はじかみ)地区の「気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館」を訪ね、この地を襲った津波の脅威と迅速な避難の重要性について学びました。伝承館のほど近くにある農業法人「シーサイドファーム波路上」では、気仙沼イチゴの生産現場を見学。高設養液栽培を行っているハウスで、おいしいイチゴを育てるための工夫や苦労を教えてもらいました。気仙沼大島大橋を渡り、亀山の麓の漁港で待っていたのは、カキ養殖業を営む「ヤマヨ水産」代表取締役の小松武さん。震災被害から再起を図った経緯を聞き、カキむきの加工場を見学しました。小松さんが振るまってくれた熱々の蒸しガキに、参加者は大喜び。普段、カキが苦手だと話す子どもたちも、おかわりを求めるほど好評でした。小松さんは「震災の重く暗い部分に触れながらも、気仙沼の恵みに触れて楽しんでもらえたようで何よりです」と喜んでいました。
気仙沼向洋高校旧校舎内を見学
写真左;ヤマヨ水産代表取締役の小松武さん
写真右;イチゴが実るシーサイドファーム波路上のハウス
ドラマで使用した看板がかかったヤマヨ食堂
そして今
「ヤマヨ水産」では、ゴールデンウイークに向けて、春ガキの出荷準備を進めています。この時季のカキは、冬のものより旨みが強く、えぐみが少ないのが特徴です。そして、敷地内に新設する食事処「ヤマヨ食堂」のオープンも控えています。事前予約制で、春ガキを使った蒸しガキ、焼きガキ、カキフライなどを提供する予定とのこと。詳細は、「ヤマヨ水産」のホームページで確認してください。小松さんは、「このプロジェクトに参加して感じ、考えたことを大切にしてもらい、また、気仙沼大島に来て、新たな発見をしてもらえるとうれしいです」と再訪を待ち望んでいます。
- 石巻・牡鹿半島の資源活用支援
- 半島に息づく自然の恵みを活用して新たな賑わいを生む未来を
今年度の活動を締めくくったのが、2月26日に石巻市で実施した「牡鹿半島の海洋と森の恵みを体感バスツアー」。33人の参加者はまず、津波犠牲者の鎮魂と命を守る教訓の伝承を目的とした「石巻南浜津波復興祈念公園」を訪ねました。続いて一行は牡鹿半島へ向かい、桃浦地区で日本料理店と民宿を営む「瑞幸(ずいこう)」でクジラ料理を堪能しました。昼食後、「一般社団法人おしかリンク」代表理事の犬塚恵介さんが合流。震災後、牡鹿半島で増えすぎたニホンジカが山林の荒廃を招いている問題の解決策の一つとして、シカが好まないウリハダカエデを植樹し、その樹液を採取してメープルシロップを生産するプロジェクトについて説明してくれました。参加者は実際に森の中に入り、樹液採取にもチャレンジ。犬塚さんは「採取のタイミングは気温の条件が大きく関わるので、現場で樹液が出る様子を見てもらえて良かったです。皆さんも、この地の震災について学ぼうと意識の高い人たちばかりで、熱を感じました」と、この日を振り返ってくれました。
みやぎ東日本大震災津波伝承館を見学
写真左:一般社団法人おしかリンク代表理事の犬塚恵介さん
写真右:ウリハダカエデの木から樹液を採取
後日、桃浦では20リットルの樹液が採取できたと報告がありました
そして今
ツアーでは、外観を眺めるだけに留まった旧門脇小学校は、4月3日から震災遺構として一般公開が始まっています。「一般社団法人おしかリンク」では、広く募る参加型プログラムの準備を進めており、犬塚さんは「人と地域には色々な関わり方があると考えていて、例えばメープルシロップの活用先になってもらうなど、双方のメリットになる多様な関係性が生まれればと考えています」と話します。「ツアー参加者から寄付の申し出があったり、樹液の採取量に関して問い合わせがあったり、関心の高さを実感しています。これを機会に多くの結びつきが生まれ、活動の裾野を広げていければと思っています」と意気込みも教えてくれました。
一般社団法人おしかリンク
https://www.facebook.com/oshikalink/