河北新報特集紙面2021

2021年12月27日 河北新報掲載 
体感で得る学びで、命を守るための知恵と備えを。

体感で得る学びで、命を守るための知恵と備えを。

体感で得る学びで、
命を守るための
知恵と備えを。

今回は、親子を対象に実体験を通して
防災の知識を学べるデイキャンプを開催。
被災して廃校となった東松島市立野蒜(のびる)小学校の建物を
再活用している「KIBOTCHA(キボッチャ)」を会場に、
多くの学びを得られる機会となりました。
レトルト食品専門店「NISHIKIYA KITCHEN(ニシキヤキッチン)」
の協力で実施した調理体験は子どもたちに大好評。
秋晴れの空の下で味わったカレーライスと、
自由な発想でチャレンジしたサンドアートのワークショップも、
ずっと忘れられない思い出になったはずです。

震災を振り返りながら非常時に備える心構えを

 仙台駅東口から20組の親子を乗せたバスは、東松島市野蒜地区の防災体験型教育施設「KIBOTCHA」へ。施設を運営する貴凛庁代表の三井紀代子さんの案内で館内見学がスタート。震災に関するさまざまな資料を閲覧できる資料室や防災をテーマにした遊具が揃う屋内公園、宿泊設備のある階層を順番に巡りました。かたりべルームと呼ばれる部屋では、震災語り部の髙橋良子さんが発災から避難までの体験を臨場感たっぷりに話してくれました。参加女児の「一番大変だったことは何ですか」という問いに、髙橋さんは「周りの方々から家族や友人など親しい人を亡くしたことを聞くのがつらかったです。もし、そんな状況になったら、お互いを思いやって励ましの言葉をかけ合うようにしてくださいね」と、やさしい眼差しとともにアドバイスを送りました。
 さらに、館内の一室では、「NISHIKIYA KITCHEN」の菅原幸太さんと長坂歩美さんが非常食についてレクチャーしてくれました。家族の人数を考えて3〜7日分のレトルト食品を備蓄。1カ月に1回、1食分を食べるタイミングを設け、消費した分だけ補充していくローリングストックを習慣化する有効性について説明してくれました。長坂さんは、「非常食を買い足す際には、家族の好みを聞きながらバラエティーに富んだ商品を選びましょう。つらい避難生活下でもおいしい食事が元気をくれますし、1カ月に1回の消費も楽しみになりますよ」とローリングストックのコツも教えてくれました。

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施設の取り組みを説明する貴凛庁代表の三井さん/
震災語り部の髙橋さんの話に耳を傾ける参加者

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災害時に役立つ保存食についてNISHIKIYA KITCHENの菅原さんと長坂さんがレクチャー

災害時も役立つ調理体験と防災マップづくりに挑戦

 見学と講話の後は、建物の外に出てアウトドア調理に挑戦。林間BEACHエリアには、たき火台と燃料、食材と調理道具が用意されていました。最初の難関は、ファイヤースターターによる着火。初体験の親子が多く、十分な火花を作るのに手こずりながら、なんとか全員火をつけることができました。そして、三井さんの指導で、災害時でも役立つアルミ鍋を使った簡易的な炊飯にチャレンジ。アルミホイルの蓋の隙間から炊き上がり具合を観察し、ツヤツヤと輝く白飯が炊けたたき火台からは、喜びの歓声が上がりました。ごはんを皿に盛ったら、NISHIKIYA KITCHENのレトルトカレーをかけて、お待ちかねのランチタイム。この日水揚げされたカキの蒸し焼きも味わうことができ、満足の笑顔であふれました。
 お腹を満たした後は、元陸上自衛官の小暮文夫さんによる防災マップづくりを実践。KIBOTCHA周辺エリアの白地図を手に、実際に高台まで至る道路や階段を歩きながら、気づいたことを挙げていきました。小暮さんは、「地図には、階段に車椅子で避難が可能なスロープがあるか、お年寄りや体の不自由な人でも上れる傾斜の角度か、些細なことでも書き込むようにしてください。避難所と避難場所の違いも知っておくといいですね」と、留意点を語ってくれました。

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好きなレトルトカレーを選んで味わったランチタイム

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高台の公園で防災マップの作り方を説明する小暮さん

大迫力のサンドアートと畑の豊かな恵みに感動

 再びKIBOTCHAへ戻り、犠牲者を悼む巨大な砂の像がそびえ立つ体育館跡地に集合。この荘厳なアートを手掛けているアーティスト保坂俊彦さんの指導で、バケツ1杯分の砂を使ったサンドアートのワークショップを体験しました。「粘土と違って砂は崩れやすいので、ちょっとずつ削りながら形を作っていきましょう」という言葉に従い、保坂さんの手を借りながら、砂のアートを完成させていきました。
 林間BEACHに隣接して野菜農園が設けられており、収穫時期を迎えたサツマイモ掘りも楽しむことができ、参加者は袋いっぱいのお土産を手に一日が終了。三井さんは「KIBOTCHAでは、この地域で盛んなカキ養殖で使った竹を灯篭に加工したり、竹炭にして皆さんも体験した煮炊きや畑の土壌改良に役立てたりと、循環型社会を目指す取り組みも進めています。そんな新しい学びも取り入れていますので、また足を運んでくださいね」と結びました。

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コテを使った砂の削り方を子どもたちに教える保坂さん

参加者の声

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 サンドアートの出来に満足したという小学3年生の泰英さん。お父さんの真介さんは「防災について楽しく学べる良い機会になりましたし、自然に親しみながら子どもと一緒に火おこしや調理ができたことがうれしかったです。レトルト食品を活用したローリングストックについては、これまであまり考えたことが無かったので、これから家族と話し合って実践できればと思っています」と話してくれました。
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 火おこしが難しかったけれど、カレーライスはおいしかったと笑顔を見せてくれた小学3年生の歩未さん。お母さんの友紀さんは「以前住んでいた土地では地震の大きな被害が無かったこともあり、自身の防災に関する意識が低いことに気づかされ、今回得られたことが多かったと感じています。施設内の見学や語り部の方の話で知った津波被害の深刻さが、特に印象に残っています」と振り返ってくれました。