河北新報特集紙面2023
2024年3月31日 河北新報掲載
震災伝承新聞完成レポート③中学生がつなぐ記憶と教訓
被災地を訪れてこそ得る学び
昨年9月30日、仙台白百合学園中の2、3年生7人は石巻市雄勝町でホタテ養殖施設を見学後、雄勝硯(すずり)伝統産業会館で食器としての用途が注目される玄昌石クラフトに挑戦。津波から生還した語り部の被災体験に耳を傾け、入院患者・病院職員64人が犠牲となった石巻市立雄勝病院跡地で慰霊碑に献花。遺族の思いにも触れました。
3月11日午後2時46分、「鎮魂の日 祈りの集い」で全校生徒が震災犠牲者に黙とう後、中学生記者が取材成果を発表しました。津波で漁具や漁船など全てを失った漁師が力を合わせ、2018年に震災前の出荷額を超えたこと、人口減に直面する雄勝に若い漁師が移住したことを報告。雄勝硯の担当チームは、工房全てが流失しても復活を諦めなかった人の力で復興を遂げたことを強調、前を向く大切さを訴えました。雄勝病院の記事を執筆した班は、入院患者を救おうと病院に留まり力を尽くした病院職員の行動を紹介。災害時に生死を分ける判断を医療従事者に任せない環境整備が求められ、医療施設の事業継続計画策定ほか、高台や内陸への移設が進んだことを伝えました。7人は今回の活動を通して自身の記憶にはない東日本大震災が残した重い教訓を受け止め、それを次代に伝える決意を力強く語ってくれました。
被災当時の雄勝病院の状況について説明する中学生記者
発表会参加者
金子 桜愛さん(2年)
震災伝承新聞の発表を聞き、改めて震災の悲惨さや命の尊さを思い知ることができました。13年という年月が流れますが、被災地に暮らす一人として今後も祈り続け、語り継いでいける人になりたいです。
今回参加した中学生記者全員の「声」
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長谷川 真悠子さん(3年)
津波の恐ろしさを実感 - 取材でお会いした人々の行動から、復興を諦めてはいけないという強い意志を感じました。実際に津波を目の前にし、被害に遭われた佐藤美千代さんのお話などで感じ方も変わりました。これまで積み上げてきたもの、大事にしてきたものが津波によって一瞬で無くなる恐ろしさを痛感しました。私たちは被災者の声に耳を傾け意識することが大事だと思います。自然災害は思っている以上に恐ろしいもの。同じことを繰り返さないよう、積極的に防災に取り組もうと思いました。
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佐藤 心音さん(3年)
記憶の伝承 私たちの番 - このプロジェクトを通して3月11日の出来事を今起きたことのように感じました。私は当時2歳だったので東日本大震災のことは鮮明に覚えていません。津波にのまれ、九死に一生を得た佐藤美千代さんから、震災直後の夜のことなどを聞きました。話をしてくれた方々の切ない表情や身ぶり手ぶりから、当時の状況がよく伝わりました。記憶を思い起こして話すことは相当つらいことです。雄勝の皆さんが私たちに伝えてくれたように、今度は私たちが後に続く人に伝えることが大切だと思いました。
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横江 日向子さん(3年)
行動促した「無償の愛」 - 雄勝病院のことが最も印象に残っています。雄勝病院で犠牲となった職員の方は患者さんを助けるために最後まで諦めなかったと聞きました。自分の命を優先するべきだったのか、どうすれば良かったのかは誰も分からないですが、犠牲となった職員の行動を例えるなら、命、患者さんを大切に思う「無償の愛」だと思います。患者の生命を背負う医療関係者は、とても難しい立場にあります。生死を分ける緊急時の判断を全て職員に任せないようにして、負担を減らせればいいなと感じています。
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佐藤 ちひろさん(3年)
今回の経験 私も伝える - 震災当時私は2歳でした。今回のプロジェクトに参加する前は、授業で教わる程度の知識しかありませんでした。当時の記憶が鮮明にないため、今までは自分で考え想像してきました。今回、雄勝町で取材をしたことで、授業だけでは感じ取ることができなかった当時の被害の悲惨さやその場の空気感を感じました。これから東日本大震災を知らない人たちが増えていきます。そのため、私は今回得られたものを周りの人に伝え、震災を風化させないようにしていきたいです。
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伊藤 椛乃さん(3年)
現地を訪問 理解深まる - 今回の取材で、雄勝病院を襲った津波から患者さんを守ろうとして犠牲となった人々が大勢いたことを知りました。そこでご家族を亡くされた残された人の思いにも触れることができました。実際に雄勝を訪れることで、「大変だった」というだけだった私のイメージに臨場感が加わりました。津波の高さ、厳かな空気感や実体験の話など、現場でしか味わえないことがあると実感するとともに、家族や友達と共に送れる日常生活にありがたみを感じました。
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佐々木 彩芭さん(2年)
語り部の思い 心に迫る - 雄勝で取材した人たちから震災当時の話を聞き、町を一変させた災害を語り継いでいく強い意思を感じました。離れ離れになった家族を思いながら強い意志で命の危機を乗り越えた語り部の佐藤さんのお話からは、後世に語り継いでいこうという思いがひしひしと伝わってきました。私が一番大切だと思ったのは、この出来事を忘れてはいけないということです。中学生である私たちだからこそできる工夫の仕方で、後世に伝えていくことが大切だと思っています。
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平嶋 千乃さん(2年)
震災伝承へ行動起こす - 石巻市雄勝町は東日本大震災で大津波に襲われ、雄勝硯を生産していた10の工房が全て流され、職人は震災前の3分の2に減りました。そんな状況でも諦めずに復興に向けて努力した地元の方々、そしてボランティアの力があって今も雄勝硯が存在し続けているのだと強く感じました。自分たちはまだ中学生で、何をするにも微力です。それでも私たちには一体何ができるのでしょうか。震災を忘れず、自ら考え、行動を起こすことが復興に繋がると今回の取材を通して考えました。
「震災伝承新聞」は、宮城県内186の中学校へ配布したほか、愛媛県今治市の近見中学校と兵庫県西宮市の浜脇中学校などで教材として活用されました。東北各地の震災伝承施設、宮城県外の災害に関する研究を行う大学や団体、東京都・池袋「宮城ふるさとプラザ」、宮城県大阪事務所などでも配布しています。
震災伝承新聞の送付をご希望の学校、団体、施設等は事務局までお問い合わせください。
[お問い合わせ]
今できることプロジェクト事務局(河北新報社営業部)
tel 022-211-1318(平日10:00〜17:00)
中学生記者
平嶋 千乃さん(2年)
震災は生活を破壊し、多くの命を奪います。悲惨な震災を風化させぬよう、震災伝承新聞が若い世代の耳に届き、心に傷を負っても前を向いて進もうとしている方々への支えとなるようお祈りしております。