河北新報特集紙面2023

2024年4月17日 河北新報掲載 
被災地の今を知り、地域の明日を思う。

被災地の今を知り、地域の明日を思う。

被災地の今を知り、
地域の明日を思う。

今できることプロジェクトは「再生と伝承」を掲げ、
東日本大震災の被災地域活性化に
尽力する人々や団体にフォーカス、
現地での体験を通して学ぶ取り組みを実践してきました。
被災から13年。語り継ぐべき記憶と教訓を継承する活動は
大きな共感の輪を広げながら、
地域が再生を果たす未来への期待を高めています。
2023年度は、3つのテーマでプログラムを実施。
河北新報の読者、賛同企業の方々、たくさんの一般参加者とともに
得られた成果の数々をこの紙面で報告します。

次世代参加型プログラム
震災を知らない中学生が記者になって、被災地の過去・現在・未来を綴った震災伝承新聞。

 塩竈市立第二中学校、仙台白百合学園中学校、仙台市立南光台中学校の生徒23人が復興の現場で取材を行い、記者経験のあるプロジェクトメンバーによる指導の下、記事執筆に挑戦しました。取材先で感じたことや学んだことを記事にまとめ、河北新報別刷「震災伝承新聞」として2月11日に発行。その後、各校で発表会を実施し、活動成果の共有を行っています。
 震災伝承新聞は、宮城県内186の中学校に6万部をお届けしたほか、各地の震災伝承施設、宮城県外の災害に関する研究を行う大学や団体、東京・池袋「宮城ふるさとプラザ」、宮城県大阪事務所などで2万部を配布。愛媛県の今治市立近見中学校、兵庫県の西宮市立浜脇中学校などで教材として活用されました。

次世代参加型プログラム
出典:2024年3月15日付 神戸新聞


次世代参加型プログラム
出典:2024年3月8日付 愛媛新聞

生徒たちの取材に同行して

塩竈市立第二中学校 
菊地 貴典 先生

次世代参加型プログラム

 今回の取材は、東日本大震災の記憶がない生徒たちにとって新鮮であり、刺激の多い体験になりました。震災の被害や救助活動、防災の取り組みについて学ぶと共に、まち歩きでガイドをお願いした多賀城高校災害科学科の生徒たちの「語り継ぐ」姿から、その大切さと自分たちの役割を感じたようです。本校では朝読書の時間に全校で震災伝承新聞を読みました。同世代の言葉は共感しやすく、どの生徒も新聞を読む、発表を聞く表情はとても真剣でした。この学びが、さらなる防災意識の向上や今後の取り組みに広がってくれることを期待しています。

震災伝承新聞を読んで

西宮市立浜脇中学校 2年 
藤本 凛 さん

次世代参加型プログラム

 震災伝承新聞を読んで、私たちは東日本大震災の時に生きていた最後の世代なのだということ、だからこそ、悲劇を繰り返さないため、震災を風化させないために後世に伝えていくことが大切なのだと感じました。そのためにまず自分がすべきことは、中学生記者の感想にもあったように「わかろうとする」ことだと強く思いました。怖いから、他人事だからと、知らず知らずのうちに遠ざけてきていたのかもしれない震災のこと。それを自分事としてとらえ、悲劇を繰り返さないために行動していくことが大事だと思いました。私たちは阪神・淡路大震災を経験した地域として、防災意識をさらに高め、南海トラフ地震への備えを進めたいです。

川崎町立川崎中学校 3年 
追木 愛叶 さん

次世代参加型プログラム

 自分と同世代の人たちのメッセージを読み、校外学習で「山元町震災遺構 中浜小学校」へ行ったことが思い出されました。
 発災当時2歳で記憶がなく、東日本大震災は歴史上の出来事でした。しかし、被災した中浜小学校の破損した校舎を目の当たりにし、震災は紛れもない現実だと思い知らされました。それは同時に、震災・災害は思っていたよりも身近だということに気付いた瞬間でした。
 この先、私のように震災の記憶がない世代が増えていきます。犠牲者や被災された方の存在を思い語り継ぐこと、遺構を訪れ震災の脅威を実感することは大切なことだと改めて思いました。

多賀城高等学校 災害科学科 2年 
畑山 絢音 さん

次世代参加型プログラム

 まちあるきでご一緒したのは、震災当時1歳になるかどうかという年齢だった塩竈市立第二中学校の皆さんでした。
 東日本大震災の規模の地震は、およそ600年周期でこの地を襲っています。次の犠牲を防ぐためには、災害が起こった時代から次の時代の人へどれだけ伝えられるかが、多くの命を救うことにつながってきます。だからこそ、震災を知らない世代の塩竃二中の皆さんが熱心に耳を傾け、ときには鋭い質問を投げかけてくれる姿に、次の世代へ伝えていってくれる頼もしさを感じました。
 今の高校一年生にも、震災の記憶がない人が少なからずいます。もうすぐ私たちのまちあるきの活動が、震災の記憶や経験のない世代に引き継がれます。これからの伝災について考える大事な機会となりました。

尚絅学院大学 心理・教育学群心理学類 3年 
山田 海斗 さん

次世代参加型プログラム

 震災が風化するということは、その記憶が薄れていくだけではなく、教訓も過去の事として捉えられることを意味します。この先、大きな災害で再び悲惨な結果を招かないため、東日本大震災を記憶や記録として伝えるのと同時に、教訓を伝承することが大切だと活動を通して考えました。実際に今回取材を行った中学生は東日本大震災の記憶が定かではなく、被災した方々への取材を通して震災の悲惨さを知り、後世に伝承していくべきだと痛感しています。そのため、このような伝承活動は未来永劫、世代を超えて続けていくべきだと思っています。

※所属・学年は2024年3月時点

次世代参加型プログラム
多賀城高校の生徒の案内で取材した塩竈二中の中学生記者

次世代参加型プログラム
石巻市雄勝町で取材した仙台白百合学園中の中学生記者

次世代参加型プログラム
南光台中の中学生記者と一緒に活動した尚絅学院大学の学生ボランティアチーム「TASKI」

中学生たちが作り上げた
「震災伝承新聞」は
こちらからご覧いただけます。

賛同企業・読者参加型プログラム
福島相双地域の今を知り未来を思うツアー
原発事故が影を落とす大熊町・富岡町を巡り、地域再生の願いにふれる。
福島相双地域の今を知り未来を思うツアー

 東日本大震災で地震・津波・原発事故の複合災害を経験した福島県相双地域を訪ねる2年目の視察ツアーを昨年11月4日に実施。今回は、双葉郡大熊町と富岡町を訪問しました。
 町の半分が帰還困難区域となっている大熊町では、新街区の基盤整備工事が進むJR常磐線大野駅西側でバスを下車。荒涼とした街並みを視察しました。放射性物質の除染で生じた8000ベクレル超の除去土壌などを2045年までに県外で最終処分するまでの間、中間貯蔵する施設も見学。双葉町と大熊町にまたがる帰還困難区域に設けられた広大な施設の一部を巡りました。また、福島第1原発から1・3キロの距離にある特別養護老人ホーム「サンライトおおくま」では、あわただしく避難した痕跡に息をのみました。
 富岡町では、NPO法人「富岡町3・11を語る会」の語り人、田中美奈子さんのガイドで田中さんが震災前に支配人を務めていた結婚式場など町内各所を視察しました。福島第2原発を望む小浜地区の高台にある「とみおかワインドメーヌ」は、避難指示解除前の2016年より町民有志10人でワイン用ブドウの栽培に着手。圃場や栽培品種を増やしていき、18年にドメーヌを設立。スタッフの指導で、防鳥ネット格納のお手伝いにチャレンジしました。  ツアー参加者の布宮義久さん(名取市)は、「女川町や南三陸町とは違った復興の困難さを感じました」と感想を語ってくれました。

福島相双地域の今を知り未来を思うツアー

福島相双地域の今を知り未来を思うツアー車や人の往来がほとんどないJR常磐線大野駅西口に通じる目抜き通り

福島相双地域の今を知り未来を思うツアー土壌貯蔵施設の上で測定器を使って空間線量を確認する参加者たち

福島相双地域の今を知り未来を思うツアーとみおかワインドメーヌで行った鳥害対策用ネットの巻き取り作業

そして今
NPO法人富岡町3・11を語る会
代表 青木 淑子さん

 日曜日、福島県双葉郡富岡町の海の近く、復興住宅が立ち並ぶ曲田地区の一画にある小さなカフェから、にぎやかな笑い声。ブローチを手作りしようとフェルト布地にキラキラ光るビーズを並べる女性たち。70代から10代までが参加した一日工房。豆を焙煎して淹れるコーヒーの香りが漂います。居住者が減少した複合災害の被災地は、13年を経た現在も進行中の原子力災害の現状に直面しながらも、暮らしが息づいています。被災体験や記憶のあるなしに関わらず、多世代の人々が、失われたコミュニティを新たに創る拠点、それが富岡町の「コミュニティカフェCha茶Cha」です。美味しいコーヒーと多世代の町民との出会いが待っています。

NPO法人 富岡町3・11を語る会
http://www.tomioka311.com/

福島相双地域の今を知り未来を思うツアー
語り人の青木淑子さん

福島相双地域の今を知り未来を思うツアー
コミュニティカフェで開催された一日工房の模様

賛同企業・読者参加型プログラム
仙台市東部沿岸・名取市閖上視察ツアー
悲劇を繰り返さないための教訓と、地域に賑わいを取り戻す未来図を。
仙台市東部沿岸・名取市閖上視察ツアー

 2月14日、仙台市東部と名取市沿岸の浸水域を巡るバスツアーを実施。賛同企業の9社20人に加え、紙上で募集した一般参加者28人と、尚絅学院大学の学生ボランティアチームTASKI(たすき)に所属する9人が参加しました。  仙台市若林区荒浜「震災遺構 仙台市立荒浜小学校」では、元住民などの現地ガイドが2階まで浸水した校舎を案内。被災当時の映像や関係者の証言などで学びを深めたのち、近くの「震災遺構 仙台市荒浜地区住宅基礎」を訪問。津波により被災し残された住宅基礎や浸食された地形からも参加者は津波の威力を実感した様子でした。
 同藤塚「アクアイグニス仙台」では、施設を運営する仙台reborn株式会社の代表取締役・深松努さんが歓迎。にぎわいを創出し、地域再生の核として2022年4月に誕生した施設の背景や隣接地に整備される藤塚地区海岸公園と一体で目指す地域の未来図について詳しく知る機会となりました。
 地区で10人に1人が津波の犠牲になったのが名取市閖上(ゆりあげ)です。閖上中央町内会長の長沼俊幸さんには、地震発生から津波襲来、過酷を極めた避難所の実態などをお話しいただきました。「名取市震災メモリアル公園」に全員で移動後、日和山に移設された昭和三陸津波の被害実態を刻んだ震嘯(しんしょう)記念碑を前に、世代を超えて災害の記憶を伝えること、備えの大切さを訴える長沼さんの言葉に参加者は聞き入っていました。
 ツアーに参加した神戸製鋼所の清永健二郎さんは「復興にかける人々の思いに触れることができ、自分の中で震災が風化しかけていることに気づきました」と伝承への新たな決意を話してくれました。

仙台市東部沿岸・名取市閖上視察ツアー
現地ガイドの案内で「震災遺構 仙台市立荒浜小学校」を見学

仙台市東部沿岸・名取市閖上視察ツアー
昭和8年三陸地震津波の震嘯記念碑前で参加者に問いかける長沼さん

仙台市東部沿岸・名取市閖上視察ツアー
施設オープンまでのストーリーを熱弁する深松さん

そして今
アクアイグニス仙台
全国御礼物産フェア

 東日本大震災の発生後、国内外から多大な支援が寄せられました。アクアイグニス仙台ではその恩返しと交流促進による地方活性化を目的とした「全国御礼物産展」を2024年1月から開催。各フェアごとに、およそ2週間にわたり、各都道府県のお土産品や名産品を「マルシェ・リアン」で販売します。観光PR・地元文化紹介ブースの設置、施設内のレストランで各地の食材を使用したオリジナル料理の提供なども行います。これまで、熊本県、福島県、沖縄県のフェアを実施し盛況でした。5月下旬に開催予定の第4回は、鹿児島県の物産や観光の魅力を紹介する予定です。ぜひ足を運んでみてください。

アクアイグニス仙台
https://aquaignis-sendai.jp/

福島相双地域の今を知り未来を思うツアー
アクアイグニス仙台の温泉棟

福島相双地域の今を知り未来を思うツアー
第2回の福島物産フェアの模様