河北新報特集紙面2023
2023年12月28日 河北新報掲載
着実な歩みを進め、故郷を取り戻す未来を。
着実な歩みを進め、
故郷を取り戻す未来を。
東日本大震災で地震・津波・原発事故の複合災害を経験した
福島県相双地域を訪ねた昨年度の大きな反響を受け、
11月4日に視察ツアー2回目を実施しました。
今回は、福島県大熊町と富岡町を訪問。
大熊町の帰還困難区域に設定された特定復興再生拠点区域や
中間貯蔵施設を見学しました。
富岡町では、語り人(かたりべ)のガイドを伴い、
原発事故の傷跡が残る町内各所を視察。
持続可能なワイン造りを通して新たな絆をつなぐ目標を掲げる
「とみおかワインドメーヌ」にも足を運び、ワイン用のブドウを
栽培している小浜圃場で畑仕事のお手伝いに取り組みました。
大熊町民の帰還を待つ整備工事中の街並み
参加者はバスで仙台駅を出発し、大熊町へ。大熊インターチェンジで常磐道を降り、町の半分が帰還困難区域となっている町内を車窓から視察しました。住民の帰還を進めるために設定された「特定復興再生拠点区域」内で、新街区の基盤整備工事が進むJR常磐線大野駅西側で下車。駅は2020年3月に再開していますが、住民が戻った家と朽ち果てつつある建物が点在し、更地が広がる光景に参加者は沈痛な表情を浮かべました。
まるで時を止めたかのような、全町避難時の姿をとどめる旧大熊町役場にもバスで立ち寄りました。19年5月に新しい本庁舎が大川原地区に完成するまで、8年以上も町外各地の出張所で対応。そんな町民たちの苦難の時間に思いをはせました。
車や人の往来がほとんどない
JR常磐線大野駅西口に通じる目抜き通り
甚大な原発事故の影響と地域再生に必須の除染
次に向かったのは、放射性物質の除染で生じた8000ベクレル超の除去土壌などを、国の責任において2045年までに福島県外で最終処分するまでの間、中間貯蔵する施設の見学。環境省が管轄する「中間貯蔵工事情報センター」で詳しい説明を受けた後、双葉町と大熊町にまたがる帰還困難区域に設けられた広大な施設の一部を巡り、現在は稼働を終えたベルトコンベアほか土壌貯蔵施設、受入・分別施設などをバス内から視察しました。
途中、8000ベクレル以下の土壌貯蔵施設の上に立ち、測定器を使って空間線量をチェック。参加者は不安げに計器の数字を見つめましたが、地表に近づけてもその値は毎時0.5マイクロシーベルト以下とわずか。同行したセンターの大澤政之さんから、「分別した除去土壌の上に覆土することで放射線を遮蔽(しゃへい)しています。胸部レントゲン1回の線量が60マイクロシーベルトくらいです。」と施設の安全配慮について説明がありました。
福島第1原発から1.3キロの距離にある特別養護老人ホーム「サンライトおおくま」では、当時、デイサービス利用者を含めて110人の高齢者をスタッフが混乱の中で避難させた状況をそのままに残すホールや事務所などもガラス越しに見学。歩行が困難な利用者を町役場の職員や消防士も加わって町内の保健センターに搬送したエピソードに耳を傾けました。
敷地内の仮設展望台から、土壌貯蔵施設や廃炉作業中の福島第1原発も遠望。原発との距離の近さを、参加者自身の目を通して実感することができました。
測定器を使って空間線量を確認する参加者たち
当時を物語る「サンライトおおくま」のホール
中間貯蔵施設や福島第1原発の
施設を見渡す仮設展望台
いつかたくさんの人で賑わう駅前や商店街の未来を願って
昼食後、NPO法人「富岡町3・11を語る会」の語り人、田中美奈子さんがバスに同乗、富岡町内の視察を行いました。JR富岡駅前から県道391号線の浜街道へ。震度6強の揺れで崩落した沿岸のシンボル「ろうそく岩」や、かつて市場があった富岡漁港の様子などについて教えてくれました。震災前、支配人を務めていた結婚式場も訪問。チャペル内部は、崩落した天井やガラスの破片などで足の踏み場もなく、揺れのすさまじさを伝えていました。桜の名所として知られ、町民の心のよりどころである「夜の森桜並木」では、「今は通りに人影は少ないですが、数年後、賑わいを取り戻せるよう願っていますので、ぜひ皆さんにも再訪してほしいです」と、田中さんは参加者にメッセージを送りました。
(左)結婚式場の前で語る田中美奈子さん
(右)崩壊したままのチャペル内部
豊かな実りを醸すワインで新たな出会いを演出
田中さんとお別れした後、福島第2原発を望む小浜地区の高台にある「とみおかワインドメーヌ」を訪問。ここでは、スタッフの細川稚子(わかこ)さんらが一行を歓迎してくれました。避難指示解除前の2016年より町民有志10人でワイン用ブドウの栽培に着手したのをきっかけに圃場や栽培品種を増やしていき、18年にドメーヌを設立。来年からJR富岡駅前にワイナリーを着工予定で、25年春から一般販売を目指しています。スタッフの原田直樹さんの案内で圃場を一回りした後、防鳥ネット格納のお手伝いにチャレンジ。3つのグループに分かれ、ネットを丁寧に巻き上げていきました。作業後、稚子さんは参加者に謝意を伝えながら、「海の幸に合う赤と白のワインを作りますので、楽しみに待っていてくださいね」と、再来年の初リリースをアピールしました。
(左)ドメーヌスタッフが参加者をお出迎え
(右)鳥害対策用の長いネットを丁寧に巻き取り
一般参加者の声
- 宮城県内の被災地は何度も訪問済みながらも、相双地域で目の当たりにした現状に心動かされたという布宮さん一家。義久さんは、「10年以上経てもなお、無人の家がそのまま残っている事実に驚き、女川町や南三陸町とは違った復興の困難さを感じました。また、中間貯蔵施設の見学という貴重な経験をすることができ、今後のエネルギー問題を考えるとともに、原子力災害についてももっと学ばなければと思いました」と語ってくれました。
賛同企業の声
- 今年10月に仙台へ赴任してきたのですが、母が宮城県出身だったりと、東北・宮城に深い縁を感じていたので、東日本大震災について学べるこのような機会をいただけたことに感謝しております。今回のツアーでは、特に「サンライトおおくま」の状況が壮絶で、老年の父を持つ自分としては、とても心に訴えかけるものが大きかったです。今回、私自身が目にした学びを同僚や友人、家族など身近な人たちに伝えていければと思っています。