河北新報特集紙面2023
2024年3月23日 河北新報掲載
教訓を継承し、新たな賑わいを生み出すために。
教訓を継承し、
新たな賑わいを生み出すために。
東日本大震災の発生から13年が経過しようとする2月14日、
地域再生に向けた挑戦が続く仙台市若林区と
名取市の沿岸を巡るバスツアーを実施しました。
参加者はまず、津波で甚大な被害を受けた仙台市沿岸部にある
「震災遺構 仙台市立荒浜小学校」と
「震災遺構 仙台市荒浜地区住宅基礎」を見学。
複合リゾート施設「アクアイグニス仙台」を運営する
仙台reborn株式会社代表取締役・深松努さんから、
施設の成り立ちと今後の展望についてお聞きしました。
名取市では、閖上中央町内会長・長沼俊幸さんの
被災体験に耳を傾けた後、「名取市震災メモリアル公園」に移動し、
伝承することの大切さを学びました。
被災の痕跡を残す震災遺構で津波の恐ろしさを実感
今回のツアーは、今できることプロジェクト賛同企業の9社23人に加え、紙上で募集した一般の参加者28人と、尚絅学院大学の学生ボランティアチームTASKI(たすき)に所属する大学生9人が参加。「震災遺構 仙台市立荒浜小学校」では、荒浜地区の元住民を含む3人の現地ガイドが、児童・教職員・地域住民320人が校舎に避難して助かった当時の状況などについて詳しく解説しながら校舎内を案内。当時の校長や町内会長などへのインタビューを収めた映像資料や、元住民が制作に協力した震災前の町並みのジオラマ、大災害に対する備えの重要性を伝える資料展示などを見学し、震災と防災について考察を深める貴重な機会となりました。
校舎4階展示室「在りし日の荒浜」
の町並みのジオラマ
津波で浸食された地形や破壊された住宅の基礎などをありのままの姿で残す「震災遺構 仙台市荒浜地区住宅基礎」も見学。見学路の要所には、地区を壊滅させた津波の威力やかつての荒浜の暮らしの様子などを紹介する説明看板が設置されており、参加者は看板の写真と現在の様子を見比べながら、地区周辺で190人以上が犠牲となった津波の恐ろしさを実感しました。また、ほど近くには犠牲者を慰霊する荒浜慈聖観音が建立されており、静かに目を閉じて手を合わせる参加者も見受けられました。
すさまじい威力の水流が破壊した住宅跡
地区住民の10人に1人が犠牲に悲しみを繰り返さないために
多重防御の観点から6㍍かさ上げして整備された県道亘理塩釜線を経由してバスは名取市閖上へ。閖上中央町内会長の長沼俊幸さんが、震災発生から津波襲来、苦難に満ちた避難生活までをスライド資料を示しながら語ってくれました。能登半島地震の避難状況にも触れながら、「避難所になった学校の体育館はプライバシーが確保できない状況でしたが、段ボールの仕切りがストレス軽減に役立ちました。このような小さな知恵の積み重ねが、今後の災害対策に役立ってくれればと願っています」と結びました。
講話の後、「名取市メモリアル公園」に移動し、日和山付近をガイド。園内に移設された昭和8年に発生した三陸地震津波の震嘯(しんしょう)記念碑前では、「過去何度か津波の被害を受け、こうして後の世の人に注意を呼び掛ける石碑が存在していることも、地区のみんなが知っていました。でも、碑文の内容を理解し、伝えようとする努力を誰もしてこなかった。皆さんが住む土地にも、このような教訓を伝える何かがあるはず。日々の安心を当たり前だと思わず、非常時に備える心がけを持ってください」と、参加者に呼び掛けました。
長沼さんが語るエピソードへ
熱心に耳を傾ける参加者たち
三陸地震津波の震嘯記念碑前で
参加者に問いかける長沼さん
地域に活気をもたらす複合施設で復興の先にある未来を描いて
最後の訪問場所は、2022年4月に仙台市若林区藤塚にオープンした「アクアイグニス仙台」。広大な敷地には、温浴施設ほか著名なシェフやパティシエが手がけるショップやレストラン、地場産品を扱う物産販売所などが集結しています。施設を運営する仙台reborn株式会社の代表取締役・深松努さんが一行を歓迎。藤塚地区における被災状況の説明から深松さんが社長を務める建設会社による復旧復興工事、この施設が目指すプロジェクトストーリーまで、詳しく語ってくれました。さらに、東北大学と共同で進めている農業用ハウスに太陽熱を蓄える装置を配備して化石燃料を使わずにトマトを栽培する実験など、先進的な取り組みも紹介しました。
施設オープンまでのストーリーを熱弁する深松さん
講演後、2グループに分かれた参加者たちは施設内を回遊。産直施設「マルシェ リアン」でお土産を買い求めたりコーヒーショップで一休みしたりと、思い思いにアクアイグニス仙台を満喫しました。温泉棟の屋上からは藤塚地区海岸公園計画によって工事が進む景観を一望。これは、平成25年に仙台市が策定した「海岸公園復興基本計画」を元に整備が進んでいる一大プロジェクトで、藤塚地区では8.9ヘクタールの敷地に「自然」「継承」「にぎわい」の3エリアを設け、水辺の景観地やデイキャンプ場、全天候型の遊び場などを整備する予定となっています。深松氏は「アクアイグニス仙台の温泉も含め、この海岸公園内で一日中過ごせるエリアとなることを期待しています。震災で多くを失ったこの地に3世代みんなが楽しめる場所を生み出し、賑わいを取り戻したいと思っています」と展望を語ってくれました。
「アクアイグニス仙台」の
メイン施設である温泉棟を見学
「マルシェ リアン」で地場産の野菜や
加工品をお買い物
一般参加者の声
- TASKIの活動を通して閖上地区の震災被害について学んできましたが、長沼さんのお話を聞き、あらためて伝承の大切さを確認することができました。「アクアイグニス仙台」にも何度か訪れたことはあったのですが、温泉の排熱利用や農業ハウスの研究など未知の情報を知ることができ、観光施設としてだけでなく、地域再生の役割も果たしていることにとても驚かされました。今回、自分たちの目で見た仙台市沿岸地域の今を、他の人にも教えてあげたいです。
賛同企業の声
- 3年前に宮城へ赴任した際、被災地を視察したのですが、今回はただ見るだけでなく、被害の大きさや復興の現況などを詳しく知る貴重な機会となりました。また、長沼さんのお話をお聞きして、正しい災害への備えや防災意識を高める必要性を感じることができました。このツアーに参加することで、被災された方たちの復興への思いに触れることができたとともに、自分自身の中で風化しかけていることに気づきました。私が今回見聞きしたことを社内でしっかり伝えようと思っています。