河北新報特集紙面2023
2024年3月24日 河北新報掲載
おいしく食べよう、みやぎの海山のめぐみ
安心安全な野菜や海の幸を家庭に届け、日々の豊かな食生活を支えている「みやぎ生協」。これまで、宮城県内各地の〝食の躍進〟へ取り組む生産者や活動を紹介してきた「今できることプロジェクト」はその理念に共感し、食の宝庫である宮城をより深く知るため、みやぎ生協の2大ブランド「めぐみ野」と「古今東北」に関わる現地生産者を取材。生産者と消費者の食に対する思いを直接結ぶ〝産消直結〟への取り組みや、東北復興への思いを込めておいしさを伝えるブランドの意義に迫りました。また、郷土で愛されてきた伝統の食材を使った、素朴でおいしいレシピも紹介します。
- 1.日常の食卓に欠かせない野菜を安定して届けるための工夫を。
- ミニトマト栽培…やまねふぁーむ●小野信弥さん(白石市)
2010年に地元白石市で就農した小野信弥さん。身近に指導してくれる先輩農家もいないながらも、自ら情報収集を行いミニトマトの栽培に取り組みました。
小野さんが手がけているのは、濃厚な旨味を持つアイコとしっかりした果肉のすっぴんミニトマトの2品種。白石川の川州に5棟のハウスを建て、地下水を利用するウォーターカーテンを活用しています。水温は夏が13度、冬は15度とほとんど外気に左右されないので、厳しい寒暑による大きな被害を受けにくいのが利点。めぐみ野旬菜市場には、季節を問わず新鮮で完熟に近い状態で出品しているので、定番の人気商品となっています。
地域農業の未来にも関心を寄せる小野さんは、「農業に関心を持ってくれる若者たちに、お手本となるような仕事を続けていきたい」と決意を話してくれました。
不耕起栽培などさまざまな手法を試しながら、自分で手応えを感じられる農業を実践。
真冬でもおいしいミニトマトが食べられるよう、一年を通して安定した収穫量を確保。
システムエンジニアから転職した小野信弥さん。
- 2.十分な採光と空気の循環によって生産性を高め健康的な卵を生産。
- 鶏卵生産…我妻秋治商店●我妻元太さん(蔵王町)
現代表の娘さんと結婚したのを機に入社し、3代目として修行中の我妻元太さん。古くから養鶏農家が集まるこの地で、我妻秋治商店はオープン(開放)鶏舎による飼養に注力しています。大量生産を目的としたウインドウレス(閉鎖型)鶏舎とは違い、日光と自然の通風を十分に取り入れることが可能で、より健康的に鶏を飼育できるのがメリット。そのためには、鶏舎内の緻密な温度管理が必須で、鳥インフルエンザなどへの注意も欠かせません。元太さんは、PCを活用した室温のデータ管理という重要な役割を担っています。
基本に忠実な飼育を心がけながら、「安心安全な食品として卵を届けること」をモットーに掲げる代表の我妻孝宣さん。その大きな背中を追いながら、元太さんは「地元を支える産業として長く継承できるよう力を尽くしたい」と力強い意志を表明してくれました。
明るく開放的なオープン鶏舎は、鶏の健康を保つ生育環境を実現。
エサに魚粉や地域産の飼料米などを配合し、コクがありながらも食べ飽きない味わいの「蔵王育ちのたまご」。
鶏舎の温度管理に細心を尽くしている我妻元太さん。
- 3.天然の種苗から育てた上質のホヤを抜群の鮮度で味わえるように。
- ほや養殖…あつみ屋●渥美貴幸さん(石巻市)
小学生の頃、近所で慕っていた漁師を手伝いながら、憧れを抱いていたという渥美貴幸さん。念願を果たし25歳で水産業を興しましたが、その翌年に震災津波で家屋や船など一切を失ってしまいました。失意の中にありながらも、漁業組合の職員から復帰を切望する電話を受けたことをきっかけに再出発を果たし、現在に至ります。
渥美さんが拠点とする鮫浦湾は、昔からホヤ養殖が盛んなだけでなく、種苗採取ができる全国でも珍しい水域。生育の場としても絶好の条件を備え、甘みがあって栄養価の高いホヤが収穫できます。旬の時期は朝4時に水揚げし、みやぎ生協各店のオープンに合わせて出荷するので鮮度抜群。その魅力をより多くの人に知ってもらいたい渥美さんは「生産者だからこそ伝えられる、食べ方などの提案をしていければ」と意気込みたっぷりに語ってくれました。
天然の種苗を採取し、3〜4年かけて大きくしたホヤを収穫。
ホヤは鮮度が命なので、臭みやクセが出ないように温度管理を徹底して出荷。
谷川浜で最年少の漁師として頑張る渥美貴幸さん。
- あつみ屋ホームページ
- https://atsumiyanohoya.mystrikingly.com/
- 1.南三陸の恵みを土壌に込めて栄養たっぷりの小松菜を栽培。
- 小松菜栽培…星農場●星達哉さん(南三陸町)
震災前は、菊のハウス栽培を手がけていた星農場。津波により甚大な被害を受けましたが、地元の人たちや全国から集まったボランティアの協力で、約2年半かけて農業環境を整備しました。再建したハウスで栽培に着手した作物が小松菜。代表の星達哉さんは「一年を通じて出荷でき、雇用を安定して維持するためにこの野菜を選びました」と話します。
星さんは、小松菜の品質を高めるため、土づくりを重視。地元養殖業からもたらされる牡蠣殻や南三陸杉の樹皮を細かく破砕し、もみ殻などと一緒に土と混ぜます。地中に十分な栄養と空気を含ませることで、糖度が高く歯触りも心地よい小松菜が育ち、1年に5回収穫。星さんは「この農場の小松菜は、和洋中どんな調理法でもおいしく味わうことができ、活用の幅が広い野菜ですよ」と、その魅力をアピールしてくれました。
ミネラル分たっぷりで、ふかふかとやわらかい土壌で生育。
葉や茎が厚くてみずみずしい「しゃきっと小松菜」。
現在ビーツやカリーヌケールといった洋野菜の生産にも注力している星達哉さん。
- 2.浜の漁師たちが共に手を取り合い地元水産業の未来を懸けたワカメ。
- ワカメ養殖…漁業生産組合 浜人●阿部勝太さん(石巻市)
北上川からもたらされる豊富なミネラルと外洋の速い潮の流れが相まって、良質なワカメやコンブが育つ絶好の養殖環境となっている石巻市の十三浜。被災後、地元漁師5家族で立ち上げた「浜人(はまんと)」は、協業によって生産から流通、販売まで手がける6次産業化や販路拡充に取り組み、浜の代名詞たる塩蔵ワカメを全国的な知名度を誇る地域ブランドにまで押し上げました。
ワカメの収穫期は例年2月中旬~5月中旬で、塩蔵にするのは3月中旬~4月中旬に採れる絶妙な歯触りが楽しめる厚みに達したもの。収穫のタイミングは気候や水温に大きく左右され、猛暑となった昨年はその見極めに苦労したそうです。阿部さんは、「主役にはなりにくい水産物ですが、一度味わったら100%リピートしてくれる品質を意識しています」と、こだわりを語ってくれました。
漁師の担い手不足の問題を解決するため労働面の改革に挑んできた浜人。
「しゃきしゃき湯通し塩蔵わかめ」と「ぷりぷり湯通し結び昆布」。
一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンの代表理事も務める阿部勝太さん。
ふるさと味わいレシピ
大根を輪切りにしてゆで、真ん中に串を刺して天日干しにする“へそ”のような見た目がユニークな「へそ大根」。皮をむいた柿の実を寒風にさらして甘さを引き出す「ころ柿」。この2つの丸森町特産の保存食を使った郷土料理のレシピを紹介。野菜に精通し、食育にも取り組んでいる宍戸志津子さんに、簡単でおいしく仕上げる調理のコツを教えてもらいました。
宍戸 志津子さん…丸森町在住。野菜ソムリエ、飾り巻き寿司インストラクターの資格を持ち、みやぎシニア食育コーディネーターとしても活躍中。
へそ大根のお煮しめ
- 材料(4人分)
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●へそ大根…8個
●ニンジン…小1本
●こんにゃく…半丁
●干しシイタケ…4枚
●凍み豆腐…4枚
●結び昆布…8個
●ちくわ…4本
●しょう油…大さじ3
●みりん…大さじ2
●砂糖…小さじ1
●顆粒だし…小さじ1
●へそ大根とシイタケの戻し汁と水…3カップ
- 作り方
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❶へそ大根と干しシイタケを一晩水で戻し、軽くしぼる。戻し汁は取っておく。
❷凍み豆腐はぬるま湯で戻し、軽くしぼって三角に切る。
❸ニンジンは斜め切り、こんにゃくとちくわは三角切り、昆布は軽く水洗いして結んでおく。
❹鍋に戻し汁と水、すべての具材●調味料を入れ強火で煮る。沸騰したら弱火にし、汁気がなくなるまで煮込む。
●POINT/へそ大根の戻し汁を入れることで、甘みと大根の風味が出ます。
ころ柿なます
- 材料(4人分)
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●ダイコン…500g
●ニンジン…小1本
●ころ柿…2、3個
●砂糖…大さじ2
●酢…60cc
●塩…小さじ1杯半
●柚子の皮(お好みで)…少々
- 作り方
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❶ダイコン、ニンジンは皮を剥いて千切りし、塩で揉んでから約15分置く。
❷ころ柿を切って種を取り除き、幅1cmほどの厚さで縦に切る。
❸ダイコンとニンジンから出た水分を強く絞り出し、ころ柿と砂糖、酢を合わせて味をなじませる。
❹器に盛り付けたら、その上から柚子の皮を散らす。
●POINT/大根の水分量で塩の量を調節してください。