河北新報特集紙面2024

2025年4月16日 河北新報掲載
記憶と教訓をつなぎ、地域再生の歩みを応援。

記憶と教訓をつなぎ、地域再生の歩みを応援。

記憶と教訓をつなぎ、
地域再生の歩みを応援。

今できることプロジェクトは東日本大震災の風化に抗い、
災害から命を守る活動に取り組む人にフォーカス。
現地での体験を通して学ぶ活動を実践してきました。
発災から14年。遠ざかりつつある被災の記憶を振り戻し、
語り継ぐべき教訓を継承する活動は共感の輪を広げています。
「学び直しと伝承」を掲げた2024年度も、
3つのテーマでプログラムを実施。
河北新報の読者、賛同企業の方々、たくさんの一般参加者とともに
得られた成果の数々をこの紙面で報告します。

次世代参加型プログラム
次代に託す記憶のバトン「震災伝承新聞」
震災を知らない中学生が「被災地の今」を綴った新聞づくり。

 仙台市立五橋中学校、仙台市立三条中学校、聖ウルスラ学院英智小・中学校の生徒23人が宮城県山元町、松島町、南三陸町の復興現場で取材を行い、プロジェクトメンバーによる指導の下、記事執筆に挑戦しました。取材先で感じたことや学んだことを記事にまとめ、河北新報別刷「震災伝承新聞」として2月11日に8万部を発行。その後、各校で発表会を実施し、活動成果の共有を行っています。
 震災伝承新聞は、宮城県内184の中学校にお届けしたほか、石川県輪島市立門前中、愛媛県今治市立近見中、兵庫県西宮市立浜脇中などで教材として活用されました。各地の震災伝承施設、仙台市図書館、そなエリア東京、宮城県大阪事務所などでも配布しています。

次世代参加型プログラム
出典:2025年2月28日付 神戸新聞


次世代参加型プログラム
出典:2025年3月7日付 愛媛新聞

生徒たちの取材に同行して

聖ウルスラ学院英智小・中学校 
熱海 龍太郎 先生

次世代参加型プログラム

 発災当時、生まれて間もなかった中学生にとって、震災はメディアや本を通して「知る」ものでした。だからこそ、南三陸取材を通して当時の様子や想いを聞き、とても大きな衝撃を受けたようです。一人の選択が大勢の命と暮らしを左右することを知り、生徒たちは自分にできることは何かを主体的に考え、まとめの発表を行いました。取材に参加した生徒たちだけでなく、彼らの発表を聞いていた生徒たち、震災伝承新聞を読んだ生徒たちも、震災以降、人々が紡いできた想いを、さらに次の世代へとつないでいってくれることを期待しています。

震災伝承新聞を読んで

兵庫県西宮市立浜脇中学校 2年 
岡村 隆希 さん

次世代参加型プログラム

 社会科NIEの授業で、東日本大震災の発生時、南三陸町で「若い力が活躍した」という震災伝承新聞の記事を読みました。時を同じくして神戸での校外学習で「人と防災未来センター」を見学。阪神・淡路大震災を取材した神戸新聞社の方の講演をお聞きする機会もありました。被災当時の神戸や人々の様子、他の新聞社と協力して新聞発行を続けたことを知り、災害時こそ助け合いが大切だと感じました。僕は阪神・淡路大震災の被災地域で暮らしながら、地震について深く考えたことがありません。今回、東北の同世代が取材した記事などで地震の怖さを再認識しました。近い将来、地震が起きた時は自分たちが率先して行動しようと心に誓いました。

加美町立中新田中学校 2年 
田村 結愛 さん

次世代参加型プログラム

 震災伝承新聞を読んで、今の幸せな生活が当たり前ではないことを実感しました。そして、震災を経験した語り部の皆さんが、震災を知らない私たち世代に「知ってほしい」という強い思いをもって活動していることに感銘を受けました。
 震災当時、生後7か月だった私は、祖父に守られ無事でしたが、ミルクや紙おむつが不足して大変だったと、母から聞きました。私の住んでいる地域は、洪水で避難することがあります。学校ではハザードマップの確認や校舎内外でのヒヤリハットを考える活動、講演会「いのちの教室」もありました。新聞にも書いてあった「物の備え」はもちろんですが、「心の備え」「行動の備え」についても家族や友達と話し合い、防災の知識を深めていきたいです。そして、たったひとつの自分の命、周りの命を大切にしていきます。

中学生記者との活動を通して

宮城県松島高等学校観光科 2年 
今野 凌太 さん

次世代参加型プログラム

 三条中の皆さんに松島をガイドした時は、東日本大震災で松島が受けた被害実態を伝えることを考えていました。
 東日本大震災の発生から今年で14年が経ちます。被災の記憶は、徐々に薄れてしまっているように感じます。災害の記憶が風化しないように、人々の記憶から絶やさないように語り継いでいくことが大切だということを今回のガイドで実感しました。
 例えば、「津波が押し寄せてきた場所がどこまでだったのか」であったり、昔と今の状況を比べてみると、「大きく変わった場所」もあります。防災力を高めるうえで伝承はとても大事なことだと再認識しました。災害の時に生まれていなかった赤ちゃんたちは、大災害を知りません。この記憶をつないでいくことは世の中のためになっていくと考えています。

東北大学農学部 2年 
遠藤 てまり さん(右) 
貫洞 美月 さん(左)

次世代参加型プログラム

 2人にとって初めての中浜小ガイドで緊張しましたが、観察力がある五橋中の皆さんは真剣に私たちの説明に聞き入っていました。中浜小に関する下調べを踏まえ、多くの質問を現場でいただきましたが、自分が今まで気に留めなかった視点からの質問も含まれ、学びが多々あり、同時に語り部としての実力不足も感じた貴重な経験となりました。お忙しい中、語り継ぎの指導をしてくださった「やまもと語りべの会」の井上剛先生や諸先輩、震災遺構中浜小の来館者の方々に感謝しながら、これからも記憶と教訓を語り継ぐ活動を頑張っていきます。
 深く心に刻まれた今回の挑戦を糧に、もっと中浜小学校について学び、ガイドとして経験を重ね、良い語り部になれるよう精進します。

※所属・学年は2025年3月時点

次世代参加型プログラム
東北大生の案内で山元町の取材を行なった五橋中の生徒

次世代参加型プログラム
松島高生とともに松島町を取材した三条中の中学生記者

次世代参加型プログラム
南三陸町で取材を行なった聖ウルスラ学院英智小・中のメンバー

能登の被災地につなぐ新聞づくりへの挑戦
 昨年1月の能登半島地震と9月に発生した豪雨災害で被災した輪島市門前地区。輪島市立門前中学校の生徒たちが、震災伝承新聞を参考に地域の現状を取材し、山積する課題と向き合いながら、自分たちが果たす役割についてまとめる新聞作りに着手します。今年9月の修学旅行で訪れる東京の石川県アンテナショップ「八重洲いしかわテラス」で、新聞を配布する予定です。
「震災伝承新聞」を読む門前中の生徒たち
「震災伝承新聞」を読む門前中の生徒たち

中学生たちが作り上げた
「震災伝承新聞」は
こちらからご覧いただけます。

賛同企業・読者参加型プログラム
「石巻・大川小を知り、未来を拓く」上映会ツアー
大川小に学んで守るべき命と向き合い、ともに未来を歩むために。
「石巻・大川小を知り、未来を拓く」上映会ツアー

 大津波警報で避難が呼び掛けられる中、校庭で45分以上待機した児童74人と教員10人が犠牲になった石巻市立大川小学校。昨年12月14日に実施したツアーには、大川伝承の会共同代表の佐藤敏郎さんが同行し、震災遺構として2021年に公開された大川小を訪れました。
 卒業を1週間後に控えていた次女みずほさんを大川小で亡くした佐藤敏郎さん。当時中学2年生だった長女そのみさんは、日本大学芸術学部在学中に大川地区を舞台にした劇映画とドキュメンタリー作品を制作しました。お二人から被災前の学校生活と大川小を襲った津波の威力や避難が遅れた要因を説明いただきました。壁面に残る校歌の題名「未来を拓く」を前に、参加者は悲しみの向こうに一歩を踏み出すため何ができるか、思いを巡らせました。
 石巻市震災遺構門脇小学校へ移動し、佐藤そのみさんが大学在学中の2019年に撮影した2つの映像作品「春をかさねて」と「あなたの瞳に話せたら」を鑑賞。上映後、フリーアナウンサー黒田典子さんとそのみさんが登壇し、トークセッションも行いました。ツアー終了後、佐藤そのみさんは「あの時代、あの震災を経験した子どもたちが、どのように受け止め、どのように前へ歩んでいったかを作品を通じて感じてもらえたと思います」と感想を寄せています。
 上映会の終了後、館長のリチャード・ハルバーシュタットさんらのガイドで、3つのグループに分かれて石巻市震災遺構門脇小学校を見学し、より学びを深めることができました。

「石巻・大川小を知り、未来を拓く」上映会ツアー
校舎前で献花後、参加者一同で

「石巻・大川小を知り、未来を拓く」上映会ツアー
真剣な表情で佐藤そのみさんの監督作映画を見つめる参加者たち

「石巻・大川小を知り、未来を拓く」上映会ツアー
津波と火災で被災した校舎内部は当時そのままに保存されている門脇小

そして今
大川伝承の会
共同代表 佐藤 敏郎さん

 14年前、大川小でガイドをしている自分の姿はさすがに想像できませんでした。大川を舞台にした映画ができることも。ただ、そのみは震災前から大川で映画を撮りたいと言っていたので「ホントにやったんだな」という気もしますが。
 ここ数年、ガイドで一番反応ある写真は、がれきに埋もれた校舎ではなく震災前の町や学校です。大川の風景、日常、子供たちを忘れたくないし、知ってほしい。それをふまえて未来を「一緒に」考えていきたいと思います。
 伝承活動は一方通行ではなく、響き合うものです。交流の中で皆さんのいろんな想いにふれることができ、私にとっても有意義な一日でした。親子ともども、これからもよろしくお願いします。

石巻市震災遺構
https://www.ishinomakiikou.net/

「石巻・大川小を知り、未来を拓く」上映会ツアー

「石巻・大川小を知り、未来を拓く」上映会ツアー
大川小で花見をしながら食べた給食を笑顔で懐かしむ佐藤敏郎さんとそのみさん

賛同企業・読者参加型プログラム
仙台・沿岸部で「備え」を学ぶバスツアー
3.11の経験から得られた教訓や知恵を、来るべき大災害の備えに生かす。
仙台・沿岸部で「備え」を学ぶバスツアー

 1月29日に実施したこのツアーでは、東日本大震災で直面したインフラや物流の途絶が100万都市仙台に及ぼした影響を振り返り、暮らしを支えるインフラや企業が取り組んでいる災害への「備え」について理解を深めました。
 まずは、仙台市泉区「みやぎ生協 東日本大震災学習・資料室」へ。県内48店舗中14店舗が甚大な被害を受けたみやぎ生協が、被災直後からの活動を後世に伝えるために開設したこの施設を、機関運営部長の蜂谷雅信さんのガイドで見学。災害に備える食品や日用品の家庭備蓄と、賞味期限前に食べて買い足すローリングストックの有効性についても学びました。
 宮城野区蒲生「仙台市南蒲生浄化センター」では、仙台市の約7割の下水をきれいな水に浄化して海に放流する仕組みや設備の概要について知ることができました。被災後、完全復旧まで5年以上の歳月を要した経験から、処理能力を維持するための津波対策などBCP(事業継続計画)についても詳しく教えてもらいました。第3ポンプ場では直撃した津波でコンクリート製の壁が大きく内側に湾曲しているのを目にし、参加者は息を飲んでいました。
 最後に仙台港に隣接した「キリンビール仙台工場」を訪問。震度6強の揺れで高さ10メートルの貯蔵タンク4基が倒壊し、津波で製造設備が使用不能となる甚大な被害を受けながらも、6カ月後に操業を再開したエピソードに耳を傾けました。工場見学も行い、終了後には製品を試飲し、体感的に楽しく学ぶことができました。

※役職はツアー実施時点

仙台・沿岸部で「備え」を学ぶバスツアー
「みやぎ生協 東日本大震災学習・資料室」を見学

仙台・沿岸部で「備え」を学ぶバスツアー
津波の威力で壁面が大きくへこんだ第3ポンプ場

仙台・沿岸部で「備え」を学ぶバスツアー
熟成中のビールの温度を触って確認できるコーナー

そして今
石川県内のサロン活動で
手作りキットを活用中

 みやぎ生協では、1人分の材料と作り方をセットにして30分程度で簡単な小物を作ることができる「手作りキット」の作成をメンバー(組合員)に呼びかけ、能登半島地震で被災した石川県内でのサロン活動で活用しています。
 2024年10月と12月に、みやぎ生協・コープふくしまの理事・職員が東北の生協と連携し、石川県穴水町でサロン活動を計5回実施。体操や持参した手作りキットでの小物作りを楽しむお茶会や夕食会を行い、交流を図りました。みやぎ生協・コープふくしまのメンバーは2024年6~8月、現地の人たちを励ます「メッセージカード」を送る取り組みも行いましたが、サロン参加者の中には、そのカードを持参された方もいるなど、感謝の声がたくさん寄せられました。

みやぎ生協が取り組むボランティア活動を紹介
https://www.miyagi.coop/members/volunteer/index.html

仙台・沿岸部で「備え」を学ぶバスツアー
穴水町仮設住宅集会所でのサロン活動の様子

仙台・沿岸部で「備え」を学ぶバスツアー
手作りキット作成で宮城から能登を応援