河北新報特集紙面2024
2025年3月12日 河北新報掲載
震災で得た教訓や知恵を、次の備えに生かすために。
震災で得た教訓や知恵を、
次の備えに生かすために。
東日本大震災の爪痕は表向き一部に残るのみで、
新たな未来像に向けて開発が進む仙台市沿岸エリア。
このバスツアーでは、暮らしを支えるインフラや
企業が歩んだ復興の記憶をたどり、
災害への「備え」について理解を深めました。
都市型災害の実情を学ぶため、
仙台市泉区「みやぎ生協 東日本大震災学習・資料室」と
宮城野区「仙台市 南蒲生浄化センター」を訪問。
製造停止に追い込まれながらも、
8カ月後にビールの出荷を果たした「キリンビール仙台工場」も訪ね、
事業再開までの軌跡に学びました。
地域の暮らしを守るため
支えを力に奮闘した記録
この日、泉区八乙女のみやぎ生協本部に隣接する「みやぎ生協 東日本大震災学習・資料室」を機関運営部長の蜂谷雅信さんにご案内いただきました。この施設は、県内48店舗中14店舗が甚大な被害を受けたみやぎ生協が、被災直後からの活動を後世に伝えるため2013年に開設しています。例外なく被災したみやぎ生協の職員が、それぞれの持ち場で全国の生協組織から寄せられた手厚い支援を力に、暮らしを支えるライフラインとしての職責を懸命に果たした当時を伝える記録映像や職員の証言など、BCP(事業継続計画)の観点から貴重な資料が公開されています。
震災の被災状況や全国からの支援などを
紹介する展示を見学
発災から12日後、共同購入の配送トラックが掲げた「悲しみを乗り越えてともに歩もう」という県民に向けた呼びかけは、生活再建にかける全職員の思いを表し、前を向く行動の指針となりました。
発災からのみやぎ生協の歩みを紹介する映像資料
2階に移動後、災害時を想定した食品の家庭備蓄と賞味期限が切れる前に食べて買い足すローリングストックの有効性を、生活文化部の山田尚子さんがレクチャーしてくれました。備蓄する食品は、家族の人数や必要な量を想定して1週間を目安に購入し、普段の調理で使いやすいものを選ぶことなどを解説。みやぎ生協で取り扱っている乾燥野菜の活用法やアレンジレシピ、レトルト製品の消費期限クイズなど、実例を示しながらわかりやすく語ってもらい、参加者は真剣に耳を傾けていました。
ローリングストックの実践についてレクチャー
市民のライフラインを支える責務
強靭で持続可能な防災対策
昼食後、次の目的地「仙台市南蒲生浄化センター」を目指して出発。車中では、発災7日後に空撮した仙台沿岸地域の被災状況を伝える写真パネルを示しながら、海岸から4㌔の仙台東部道路までの一帯が浸水したため、地域住民が盛り土となった東部道路の法面に避難したエピソードなども紹介しました。
南蒲生浄化センターでは、所長の大坪昭彦さんら施設職員が一行を出迎えました。まずは、管理棟の屋上で、野球場20個分相当の23.48ヘクタールもの広大な敷地に広がる施設の全景と、この地域の平坦な地形を確認。大会議室に移動し、仙台市の約7割の下水をきれいな水に浄化して海に放流する仕組みや設備、管理状況について説明してもらいました。震災では10メートルを超える津波が直撃し、完全復旧まで5年以上の歳月を要したことに言及。その経験を踏まえ、水処理施設全体のかさ上げや防水対策など、職員や避難して来た人の命を守る施設改修と処理能力を維持するためのBCPについても、詳しく教えてもらいました。
施設の役割や機能を詳しく解説する大坪所長
管理棟を出て、津波の痕跡をそのままに残す第3ポンプ場も外側から見学。3階建て・鉄筋コンクリート造りの建物の壁が大きく内側に湾曲しているのを目にした誰もが、思わず息を飲んでいました。
津波の威力で壁面が大きくへこんだ第3ポンプ場
総力を結集した復旧作業
出荷再開までの道程
最後に訪れたのは仙台港に隣接し、サッカー競技場20個分の32ヘクタールの広さを有する「キリンビール仙台工場」です。施設エントランスで総務広報担当部長の谷猪秀和さんらが参加者を歓迎してくれました。谷猪さんは操業100周年を一昨年迎えた北日本の中核工場である仙台工場の歩みを紹介。東日本大震災では震度6強の揺れで高さ10メートルの貯蔵タンク4基が倒壊し、津波で製造設備が使用不能となる甚大な被害を受けました。敷地外へも流出した製品の瓶や缶1700万本やケースなどを手作業で回収し、泥が入った設備の分解・洗浄や修繕などの復旧作業は、多くが地道なマンパワーによるものでした。それが従業員の結束力を高め、ゼロから工場設備を学び直し、自分たちのもの作りを見直す機会になったといいます。6カ月後に操業を再開、11月に岩手県遠野産ホップを使用した製品を万感の思いで出荷した経緯を語ってくれました。
工場見学後には製品を試飲し、体感的に楽しく学ぶことができました。
2011年11月2日震災後の初出荷の説明
熟成中のビールの温度を触って確認できるコーナー
一般参加者の声
- 震災時、1歳3カ月の子どもがいていろいろと大変な思いをしたので、普段から災害の備えをしているつもりでしたが、ローリングストックなどのお話を聞いて、まだまだ足りないことが多いと気づきました。仙台市南蒲生浄化センターの第3ポンプ場の壁面の見学では、あらためて津波の恐ろしさを知ることができました。明日かもしれないし1週間後かもしれない、いつ発生するかわからない大災害のために、震災の経験や教訓を語り継いでいくことが大切だと思いました。
賛同企業の声
- キリンビール仙台工場が早期に復旧したニュースを報道などで聞いていたので、どのような努力をされたのか知りたいと思っていました。弊社東北支社でも震災後、業務を再開するためにかなり苦労しましたので、このツアーで当時の実情やどのように行動したのかなどを詳しく知ることができて、とても勉強になりました。どの訪問先も、地域の人々を支える使命感を持っていることを知り、その思いを重ねながら、今後も支援や伝承のため力を尽くしたいと思っております。