2014年10月18日 河北新報掲載 東北の未来を考える高校生のためのエコツアー
尚絅学院大学の生活環境学科は2015年、環境構想学科として生まれ変わります。
「環境」は未来を考えていく上で重要なキーワードの一つです。
今回は尚絅学院大学の学生・教員と一緒に行く1泊2日のエコツアーを通じて、
将来を担う高校生に「環境」について考えてもらいました。
自然とまち、エコの未来を探った2日間。
1日目
環境って、企業の利益に結びつくんだ!
ツアー初日。最初に訪れたリコーインダストリー株式会社東北事業所は、主にオフィス向けの複合機を生産している企業で、環境と利益の両立を掲げています。
今回はリコーインダストリーに隣接するリコーロジスティクス株式会社リサイクルセンターを見学しました。センターには東北各地で使用された製品が集められ、分解・分別した後に新たな製品の原料として出荷されます。特にコピー機は1日に約120台処理されており、本体のおよそ2割を占めるプラスチックもここで破砕・圧縮され、再資源として活用されます。積み上げられた圧縮プラスチックに、参加した学生の口からは驚きの声が上がりました。
溶かされた発泡スチロールの説明を受ける高校生
全社員、エコ活動で一致団結!
午後はリコー製品の販売・サポートを行っているリコージャパン株式会社仙台五橋事業所のオフィスを見学しました。
およそ350人が働いているオフィスでは、特にゴミの分別が徹底して行われています。個人では疎かになりがちな分別も、ゴミ箱の設置場所を1カ所にする、細かなゴミの分類でも分かりやすくする、分類が分からないものについては別個に回収するといった取り組みを行うことで分別しやすい環境をつくっているそうで、その徹底ぶりには感嘆の声が上がりました。分別間違いのチェックを当番制にすることで全社員が進んで取り組むようになるという説明に、高校生も大学生も「家でもゴミの分別を徹底したい」という気持ちを強くしたようでした。
夜は宿泊先で大学生がリーダーとなり、高校生とディスカッション。1日目の活動を振り返りました。
2日目
初めて間近に見たソーラーパネル
エコといえば自然エネルギー。ツアー2日目は名取市の愛島台メガソーラー発電所からスタート。ここには8008枚のパネルがあり、発電容量は全体でおよそ2メガワットになるといいます。「太陽光発電自体あまりなじみがなく、気温も関係すると聞いて驚いた」という声や、「太陽光発電も停電の影響を受けてしまうと聞き、解決すべき課題はまだまだあるのだろうなと思った。もっと良くなっていってほしい」というメガソーラーの可能性に期待する意見もありました。
愛島台メガソーラー発電所で記念の一枚
「環境」は身近なこと、未来を考えること
「震災後、すぐにこれだけの松を植えるための態勢をつくり出したところがすごい」
津波でほとんどが失われた海岸林を再生しようと3メートルほど土を盛り、多くの団体が植樹している現場を見た男子学生の感想です。その一つであるゆりりん愛護会が地元産の種子から育てたクロマツを中心に2000本を植樹した現場を見学しました。
最後に尚絅学院大学で高校生は2日間を振り返り、「ツアーに参加して、これまで知らなかった環境に対する企業の取り組みを知ることができた」「環境への取り組みの今後の課題について気付き、考えることができてとても有意義だった」と語ります。阿留多伎眞人生活環境学科長は、「今後『環境』はどの企業、どの分野でも重要なキーワードとなっていきます。ツアーをきっかけに『環境』について考え、将来的に社会の環境リーダーになっていってほしい」と述べ、2日間に及ぶツアーは幕を閉じました。
グループワークで2日間を振り返りました。
参加者の声 高校生
多賀城高校3年
鮎澤恵さん
海岸林を見て実感した復興への第一歩
一番心に残ったことは仙台空港周辺の海岸林見学です。少しずつ着実に復興は進んでいましたが、私の住む沿岸部の町ではまだ大きな取り組みは動いていないため、同じ県内にありながら復興度合いの差を強く感じました。将来はこの2日間で学んだことや体験したことを生かし、環境のことを考えられる人として、まち、自然が共生した緑化を考えた庭園を造りたいと考えています。そのための知識を身に付けていきたいと思います。
利府高校3年
千葉桂さん
知らないことばかり!環境は驚きの連続
分解した部品をよりリサイクルしやすく分類する、リコーロジスティクスのリサイクルセンター、環境配慮型オフィスを実践するリコージャパン、ソーラーパネルの知らなかった側面、マツか広葉樹かで異なる海岸林など、知らなかったこと、見えなかった問題について考えさせられるツアーでした。今回訪れたところからは、震災にくじけることなくこの東北の地でこれからも頑張っていこうという強い意思を感じました。
参加者の声 大学生
尚絅学院大学3年
吉田蒔知さん
スタッフもエコを学ぶ場 充実した2日間に
私たちが5月に植樹を行った海岸林では、雨が少なく枯れているかもしれないと思ったマツが思いのほか成長していてホッとしましたが、周りには震災で様変わりしてしまった海岸の景色が広がっており、胸が締め付けられました。ディスカッションではファシリテーターを任され、とても緊張しました。その不安と緊張の中で個人の意見を出し合えるような場を作り、まとめあげたことはとてもいい経験だったと思います。
環境と未来のまちづくりを考える
「東北の未来を考える 高校生のためのエコツアー」は、高校生に「環境」「まちづくり」を考えるきっかけにしてもらおうと、2015年4月に環境構想学科をスタートさせる尚絅学院大学と、今できることプロジェクトがタッグを組んで実施しました。
4月から先生方と準備をし、2日間天気にも恵まれ、充実した2日間でした。今回は紙面で紹介しきれなかった部分をライターSがご紹介します。
1日目、リコージャパンのオフィス見学ではごみの分別を徹底していることを紙面でご紹介しましたが、オフィスに入ってまず驚いたのは、資料も何もない机が並んでいる光景です。
ペーパーレス会議の実践やパソコンや必要なものはロッカーに収納する・・・。高校生にとっても身近に感じられる「エコへの取り組み」だったのではないでしょうか。もちろん私も見習わなければ!と自分の机に戻ってから実感しました。
オフィスの見学後は河北新報社の今野報道部長から震災当時の状況や被災地の復興の様子についての講話がありました。
東日本大震災から3年半が過ぎましたが、伝えなければならない被災地の「今」がまだまだあることを聞いて、高校生たちにも「今できること」を考えてもらうきっかけになればいいと思います。
2日目の海岸林見学後は、震災後造られた防潮堤に上り、しばし休憩。砂浜に降りる子もいました。そんな中、参加した高校生の1人が「海に近づくのが怖い」と話しているのが聞こえました。それまでは他の生徒と同じように明るく振舞っていたので驚きましたが、復興が進んでも、震災で受けた傷が癒えるのは簡単ではないことを痛感しました。被災地を訪れ、そこで暮らす方々の声を聞く。今年の「今できることプロジェクト」でも、そんな機会を作っていきたいと思います。
ツアーのまとめは尚絅学院大学に戻ってから。大学生と高校生がグループを作り、2日間で気付いたこと、感じたことをふせんに書いてグループ分けしていきます。
各グループで発表の後、先生を交えてディスカッションをし、ツアーは終了。
1人で参加した高校生も多かったのですが、2日間ですっかり仲良くなっていました。また、学校での授業とはまた違ったスタイルだったのかもしれませんが、ツアーを通して「先輩」となる大学生との交流はもちろん、大学の講義やゼミを体験できる機会にもなったのでは、と感じました。ツアーに参加した高校生・大学生から私自身も刺激を受けた2日間になりました。
最後に、今回のツアーに関わってくださった、尚絅学院大学生活環境学科の渡邊千恵子先生からメッセージです。
人生は様々な出会いによって紡がれます。
今回のツアーに参加した高校生たちは、直接的、間接的に様々な出会いを体験しました。
見学先の皆様(お話しして下さった方、準備してくださった方)、取材に関わる皆様(カメラマン、ライターの方々)、ツアーを運営してくださった事務局の皆様、そして大学関係者(大学生、大学教職員)、わずか1泊2日のツアーでしたが、多くの出会いに恵まれました。
初めて会った他校の参加者と同じ部屋に宿泊したのも良い出会いだったようです。
いつか彼らの人生において、今回の出会いが交わる時が訪れるといいなと思っています。
最後になりましたが、今回のツアーに関わったすべての皆様に感謝申し上げます。