河北新報特集紙面2018

2019年12月15日 時を超え変わりゆく港町で、思いを受け継ぐために。

時を超え変わりゆく港町で、思いを受け継ぐために。

時を超え変わりゆく港町で、思いを受け継ぐために。

女川町における復興とにぎわいの拠点として、盛んな人の流れを生み出してきた「シーパルピア女川」。 その発展と同時に、住環境の整備も飛躍的に進んだことで、地域コミュニティーの再編が求められています。 今回は、古い記録をたどってかつての思い出を呼び起こしながら、女川の素晴らしさを再確認する機会づくりを目指し、町民の方を招いた名作映画の鑑賞会と、 町外から参加者を募って女川を応援するオリジナルソング作りにチャレンジするワークショップを開催しました。

スクリーンで鮮やかによみがえったノスタルジックな女川の記憶

 震災以降、長らく仮設庁舎での業務を強いられてきた女川町役場ですが、昨年10月、女川駅すぐそばの高台に新庁舎がオープン。「懐かしい女川に会える映画鑑賞会」は、まだ目新しい庁舎内に設けられた生涯学習センターホールで実施しました。女川の海の揺らぎをイメージしたというブルーの階段式座席の上では、石巻市の「オカダプランニング」のスタッフが35mmフィルムの映写機2台を設置して待機。ホールの外では、開演時間よりだいぶ早くから上映を待ちわびるたくさんの女川町民の方々であふれていました。

 すべての観客が座席に着き、本プロジェクトのスタッフが簡単な趣旨説明をした後、ライトダウンして上映スタート。壇上のスクリーンに、「あの波の果てまで 完結編」が映し出されました。この作品は、1961年に製作された岩下志麻さんと津川雅彦さん主演によるラブストーリー。若き日の大スターたちによる生き生きとした演技に、観客たちの目線は釘付けになっていました。物語が中盤に差し掛かると、舞台は約60年前の女川町へ。懐かしい風景がスクリーンに映し出され、客席からざわめきが沸き始めました。古めかしい見た目の旧女川駅や女川みなとまつりの盛大なパレード、時代を感じさせる商店街や船着き場のにぎわいなど、どれも現在とはかけ離れた光景ばかり。映画は、劇的なハッピーエンドで締めくくられ、観客はみな感慨深い面持ちで惜しみない拍手を送りました。

 上映後、エキストラで出演した経験を持つ町民の一人に感想を聞くと、「当時、高校生だった頃の記憶が鮮明によみがえりました。これから、一緒に映画を観た同級生たちと、思い出話に花を咲かせようと思います」と、うれしそうに語ってくれたのが印象的でした。

最も歓声が多かった女川みなとまつりのワンシーン

復興への願いと希望をつづり港町に響きわたる歌にのせて

 上映後、会場をシーパルピア女川内にある女川町まちなか交流館のホールへ移し、宮城を拠点に活動するシンガーソングライター伊東洋平さんと町内外の参加者で女川応援ソングをつくりました。震災後、同町で演奏活動を展開し、縁が深くなったという伊東さん。会場に登場した伊東さんの表情は、まさに意気込み十分といった様子でした。

 歌詞作りに着手するため、キーワードを考えるウォーミングアップを行った後、伊東さんは五・七・五のリズムで女川を表現するフレーズの書き出しを参加者たちにオーダーしました。それぞれ思い思いの言葉を記した手元の用紙を回収し、その中から特に印象深いものを選出してホワイトボードに列挙。さらに厳選したフレーズを書き並べると、伊東さんはギターを手に取り、歌を口ずさみ始めました。期待感にあふれる眼差しで、伊東さんを見つめる参加者たち。「よし、できた!」と会心の一声を発した伊東さんは、できたての応援ソングを披露してくれました。「女川にずっと伝わる歌を尊重したかったこともあり、子どもたちが踊ってくれるような、元気な曲調にしたかった」と、作曲の意図を語った後、全員で合唱練習。そして、緊張とともにレコーディングに挑戦しました。歌い終えると、会場は達成感の拍手でいっぱいに。さらに、参加者たちのリクエストを受け、伊東さんは代表曲の「HERO」を熱唱し、ワークショップを終えました。

 伊東さんは、参加者一人一人に声を掛け、「果樹園カフェ ゆめハウス」(女川町)と「食パン専門店 ジェノワーズブラン大和町店」(仙台市若林区)がコラボレーションした女川産イチジク入りオリジナル食パンを手渡しながら、お見送り。みんな一体となって一曲を作り上げた充実感の余韻は、なかなか冷めることはありませんでした。

   
参加者から聞き取ったワードを書き出す伊東さん レコーディングの前に難しいフレーズを練習
女川町の新応援ソングが完成!


女川の空で

作詞/「今できることプロジェクト2019」女川町イベント参加者
作曲/伊東洋平

海風を感じて走る 398号線
まっすぐに伸びる交わる 水平線
景色違えど 心おどるよ 美しき海
わが家から見る秋刀魚船
近づく列車 足湯のけむり 来るたびに好きになる
空の青 キミの赤 もみじの黄色
冬の花火 おかえりと 増す想い
また逢おう 女川の空で
煌めく風と生きて (※繰り返し)

伊東洋平さんからのメッセージ

 参加者の皆さんがつづってくれた言葉が、どんどん命を持った歌詞になっていく感覚がして、曲にのせるのが本当に楽しかったです。故郷を思う切ない気持ちも込められていくような感じもあって、本当に良い歌になったと感激しています。いつか、この歌が女川で広がってくれればと期待しております。

参加者の声

鈴木 麻衣さん(仙台市泉区)

 これまで、女川町についてあまり知らなかったのですが、実際に足を運んで美しい海の風景を見たり街並みを観光したりして楽しめる機会になりましたし、歌詞作りに参加することで地元ならではの温かみに触れることができたと感じています。完成した応援ソングは、心がワクワクするような良い曲に仕上がっていると思いますので、CDが手元に届くのがとても楽しみです。

原 まゆみさん(東京都)

 女川町を訪れたのは初めてでした。海も山もきれいですし、シーパルピア女川の街並みも素敵で、着実に復興していることを実感することができました。関東出身の私にとって歌詞作りは難しかったですが、他の参加者の皆さんの思いがこもった言葉を共有することができて良かったです。それを、伊東さんが上手にまとめて歌にしたので、改めてすごいアーティストだなと感心しました。

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