2018年4月23日 時が流れても、歩みを重ねる。
月日とともに薄らいでいく東日本大震災の記憶。
時が移り変わっても、私たちは「今できることは何か」を考え、
その時々に合ったテーマで復興に挑む皆さんと 歩みを重ねてきました。
2017年度に掲げた活動テーマは4つ。
河北新報読者の皆さん、賛同企業の方々、
計1000人以上が一緒になって、
「今できるプロジェクト」を展開しました。
そのエッセンスを報告します。
2017年度の今できることプロジェクトは、例年を超える多くの参加と協賛を得てフィナーレまで駆け抜けることができました。本年2018年度もこれまでのノウハウと反省を生かしながら、より魅力的な活動、充実したメニューを企画します。
長丁場となる震災復興に、私たちは何ができるのか─。その時々の「できること」を考えながら、河北新報読者の皆さんと一緒に行動していきます。
18年度の活動予定は、紙面で随時紹介するほか、今できることプロジェクトの特設ホームページやフェイスブックページでも発信していきます。皆さんの継続的な関心と関与をお願いします。
震災の津波で大きく傷ついた沿岸部の復興工事とともに、新たなまちづくりのつち音が響く南三陸町に今年、「海の見える命の森」が誕生しました。震災で犠牲になった方々の冥福を祈りながら、震災の教訓を次代に引き継ぐ集いの場として、一般社団法人「KOTネットワーク本吉」が中心となって整備を進めています。本プロジェクトでは11月3日、森づくりをサポートするボランティアツアーを実施。案内看板の設置や植樹作業を手伝い、鎮魂と震災伝承に貢献しました。
現地では、同ネットワーク代表理事の阿部寛行さんと、ツアーの運営を担ったNPO法人「ボランティアインフォ」のメンバーが参加者一行をコーディネート。まずは阿部さんらが震災後どんな活動を続けてきたかや、「海の見える命の森」に込めた願いなどについて説明を受けました。また津波の恐ろしさにあらためて向き合おうと、町職員33人を含む43人が死亡、行方不明になった南三陸町防災対策庁舎と、震災と津波から327人の命を守った場所として地元企業が取り壊さずに残している元結婚式場「高野会館」を視察。真新しい南三陸町地方卸売市場や、山を切り崩して高台に築かれた復興公営住宅などもバスで巡り、町の復興がダイナミックに進んでいることも各々の目で確かめました。
献花にあふれる南三陸町防災対策庁舎
まちの今を学んだあとは、ツアーのメーンである「海の見える命の森」の整備に着手。参加者は「植樹」と「看板作り」の2チームに分かれ、それぞれ作業を進めました。植樹チームはスコップなどの道具を手に山道を登り、高台の広場にヤマボウシとコノハウチワカエデをそれぞれ3本ずつ植えました。看板チームは、散策路に一定間隔で案内板を設置したほか、植えた木々の樹種が分かる看板と、命の森事業の取り組みの意義を伝える看板も作りました。高台には「伝えよ千年万年津波てんでんこ」と刻まれた石碑があります。阿部さんは作業を終えて心地よい汗をぬぐう参加者を前に、「この森をきっかけに地元の人たちとの交流が広がり、笑顔と元気を共有してくれると嬉しいです」と語り、息の長い支援と震災伝承に協力を求めました。
阿部さんを先頭に高台を目指す参加者たち
今回のバスツアー参加者の献身で、憩いの場としての魅力を高めた「海の見える命の森」ですが、整備の道のりはこれからが本番です。KOTネットワーク本吉はこの取り組みに関わるボランティアを随時募っています。まとまった人数がそろい次第、第2展望広場を開くための雑木の伐採作業やベリー園の植樹、東屋の整備やトイレの設置などを進める計画です。募集期間は2019年3月末まで。参加費は1人2000円で昼食弁当とお茶代、日帰り温泉の入浴料が含まれます。詳しくは下記のボランティアインフォのサイトをご覧ください。
http://volunteerinfo.jp/info/10421
手作りのオリジナル看板を散策路と広場の各地に設置
豊富な海の幸が水揚げされることで知られる南三陸町。装い新たにオープンして話題の「南三陸さんさん商店街」「南三陸ハマーレ歌津」をはじめ、町内の各飲食店では、具だくさんの海鮮丼「南三陸キラキラ丼」が人気となっています。5月1日〜8月31日の期間味わえるのは、ミョウバンを使用しない新鮮なウニを贅沢に使った「キラキラウニ丼」。各店個性あふれる旬の丼メニューを、ぜひ食べ比べしてみませんか。
44の国と地域から900人以上が集い、世界の防災戦略の今後について語り合った「世界防災フォーラム」が11月末、仙台市で初めて開かれました。25日には東北大百周年記念会館川内萩ホールで「前日祭~災害に学び、未来をつなぐ~」を実施。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が主催する啓発イベント「サイエンスアゴラ」と連携、本プロジェクトも特別協賛し、700人が詰めかけました。
第1部は「青少年からのメッセージ」。岩手、宮城、福島の3県の若者が、震災の経験とその教訓を未来に受け継ぐ取り組みをそれぞれ報告。東北大災害科学国際研究所の佐藤健教授(防災教育)らがコメンテーターとして加わり、伝承の課題や可能性などについて語り合いました。
第2部は「SENDAI BOSAI文化祭」と銘打ち、震災後に地域の人々を勇気づけてきた伝統芸能や管弦楽、合唱などが披露されました。このうち気仙沼市の伝統芸能「浪板虎舞」は虎が客席も回り、海外参加者らを沸かせました。フィナーレは、ステージと客席が一体になった大合唱。「文化」が復興の力となってきたことを各々がかみしめました。
「女川1000年後のいのちを守る会」の発表
牡蠣(カキ)や海苔(ノリ)などの養殖業が盛んな東松島市。その若き担い手らとの触れ合いを通して、地元の海の恵みを体感するバスツアーを3月17日に実施しました。ガイド役は「東松島食べる通信」の編集長、太田将司さん。この地にほれ込み、震災後の2011年秋に東松島市に移り住んだ経歴の持ち主で、自慢の地元食材とともに情報誌を季節ごとに届ける取り組みを続けています。
バスツアーは60人の募集に対し、10倍の600人が応募する人気ぶり。高倍率を潜り抜けた参加者はガイドや講師役の話に熱心に耳を傾け、体験には真剣にトライしました。
旅程の最初は、大曲浜にある乾海苔共同加工施設の見学です。工場はまさに海苔の製造中で、収穫された海苔がどのような工程を経て、われわれの口に入る商品に仕上げられているのかを学びました。
工場の外では、地元の海苔漁師の津田大さんを指導役に、和紙漉(す)きに似た昔ながらの製法で、実際に海苔を作ってみる作業も体験しました。まずは海苔を包丁で細かく刻んで、真水と混ぜてバケツに投入。木枠が付いた簀(す)の子に流し込んで形を整え、スポンジの板を押し付けて水分を取り除いた後、天日で乾燥すれば完成です。この日参加者の皆さんが手掛けた海苔は、後日各々に届けられました。
相澤さんと津田さんが手がけた海苔を食べ比べ
海苔作りに励んだ後のお昼御飯も、せっかくだから海苔を味わおうと訪れたのが、矢本地区の「ちゃんこ萩乃井」。店主の大森宣勝さんが手掛けた「のりうどん」は、生地に海苔を練り込んだ逸品です。この日は、原料となる海苔を提供している相澤太さんも同席し、独特の風味とのど越しを堪能しました。相澤さんは、毎年鹽竈神社で開かれる、皇室に献上する海苔を決める品評会で何度も受賞歴があるベテラン。津田さんは今年の一等賞受賞者です。2人が手掛けた海苔を食べ比べながら、海苔生産に掛ける意気込みや労苦を聞く時間もあり、参加者は目で耳で舌で、海苔の魅力を確かめました。
昼食後、参加者は2グループに分かれて漁業体験にチャレンジしました。一方は、東名浜地区で牡蠣養殖の作業をお手伝い。地元の牡蠣漁師、木村喜久雄さん、幸喜さん親子の船に、ライフジャケットを身に着けて乗り込み、牡蠣の養殖いかだのほか、牡蠣の幼生を付着させる苗床を見学しました。陸に戻った後は、実際に苗床をつくる作業も体験しました。
もう一方は、浜市地区にある大友水産を訪問。「祐神丸」を操る定置網漁師の大友康広さんと、一緒の船に乗る仲間2人の指導の下、実際に漁に用いている網の補修にトライしました。作業はまず、網を空き地いっぱいに広げます。作業者は網の上を歩きながら破れた部分を探しては、目印にひもを結び付けます。その後はプロが実際の補修を実演。手際よく網が蘇っていく姿に一同が息を飲みました。
バスツアー後、太田さんは「東松島食べる通信」のフェイスブックページに、こんな投稿をしました。「参加者の感想アンケートを読みましたが、どれも目がウルウルしてしまうような意見ばかり。漁師たちが震災を乗り越えてきた評価に加え、漁業体験を率直に喜んでもらえたのが何よりでした」。自然の恵みを食べ物に変える人、そしてそれを食する人─。普段は見えにくいつながりを確かめ合うツアーとなりました。
右/船上で牡蠣の苗床を引き揚げる幸喜さん 中/漁網の破れを調べながら補修が必要な場所に紐付け
左/ガイド役を務めた「東松島食べる通信」編集長の太田さん
上質な海苔の産地として全国的に有名な東松島市で、ぜひ食べて欲しいのが「ちゃんこ萩乃井」店主の大森さんが長年かけて開発した「のりうどん」。パウダー状にした海苔をうどん粉と絶妙な配分で練り上げ、唯一無二の味わいを実現しました。市内の飲食店で提供している他、「東松島あんてなしょっぷまちんど」では乾麺商品も販売中。また、洋食のバリエーションもあったりと、今後の発展も楽しみです。
地域の明日を担う子どもたちを応援する毎年好評の「こども未来応援教室」を3月4日、名取市の尚絅学院大で開催しました。約240人が参加し、職業体験などを通じで、将来の夢を膨らませました。
午前はプロジェクト賛同企業が、最新の知見を子どもたちにも分かりやすく伝える「社会科学習」。人型ロボット「Pepper(ペッパー)」のプログラミング教室や根強いファンを誇る乳酸菌飲料「カルピス」を使った実験のほか、紙漉(す)き体験や新聞紙を使った実験など、4教室を実施しました。
午後は、子どもたちの関心が高い6業種のプロが講師を務め、各々の仕事のエッセンスを体験してもらう「シゴトワークショップ」を実施。将来の夢と重ね合わせながら、学ぶ楽しさ、働く喜びに触れました。
写真右より/Pepper(ペッパー)の プログラミング教室[ソフトバンク]
「お金のひみつ−自分の会社を作ってみよう−」 ワークショップ[大和証券]
『カルピス』 こども乳酸菌研究所[アサヒグループホールディングス]
紙抄き体験と新聞紙を使った実験[日本製紙]