河北新報特集紙面2012

2012年9月17日 河北新報掲載

vol.3 田園風景 戻る日まで。

「今できることプロジェクト」とは、市民の皆さん、企業・団体の皆さん、河北新報社が一緒になって、これからの被災地・被災者支援のあり方を考え、具体的なアクションへとつなげていくプロジェクトです。紙面では毎回、実際に行われている支援の事例を、いくつかの支援スタイルに分けて取り上げ、支援する立場の人と支援を受ける立場の人、双方の生の声をご紹介します。
今回のテーマは、農地を復旧させ、作物が作れるようになる復興を目指して、ボランティアで取り組む、労働提供型支援です。

民間の支援団体「ReRoots(リルーツ)」の活動に参加している仙台市泉区の主婦 藤代晶子さん(30)

農家再生のお手伝い 自分のペースで少しずつ

仙台市若林区で被災した農家の復旧・復興を手助けしているボランティア団体があります。仙台市泉区の女性は、気負わず、楽しみを見出しながら活動に参加しています。

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今年3月末に東京から仙台に引っ越して来ました。時間があるし、せっかくだから気になっていたボランティア活動に行ってみることにしました。リルーツの活動には4月半ばから週に2日ほど、平日に参加しています。予約などが不要で自分が行ける日に行けばいいので気が楽ですね。常連のおじさま方やほかの主婦の方々など友達もできました。
リルーツの特色は、農家の再生を長期的に支援すること。農地のがれきを取り除くだけでなく、耕作支援もします。わたしも田植え前に苗づくりを手伝い、ハウスの草取りをしました。友人に話すと「それってボランティア?」と不思議がられますが、田畑を再生できれば農家は生活を取り戻せます。やりがいがあります。
奉仕という意識はありません。活動を通じて誰かとつながりを持てるし、体を動かせる。それが結果として少しでも農家の助けになるなら何よりです。
活動の参加者は全国から来た方々が多く、仙台や宮城県内の方は少ないのが現状です。地元の方にはさまざまな思いがあるでしょうし、無理はしない方がいい。ただ、少しでもボランティアに興味があったり、気になっている人がいれば、気軽に参加できる活動もあります。仲間が増えたら嬉しいです。

畑の復旧作業で支援を受けた仙台市若林区種次のレタス農家 相沢宏信さん(61)

無償で地道な作業 驚きと感謝でいっぱい

自宅や畑がすべて津波に飲まれた仙台市の農家。「跡を継ぐという息子のためにも農業を続けたい」という思いで、支援を受けながら再建に向けて頑張っています。

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ボランティアに来てもらうようになったのは今年3月からです。大きながれきを撤去しましたが、小さながれきや木のくず、ガラスの破片が土の中に残っていて手作業でないと取り除けない。のべ400人が1ヵ月かけて、約40アールの畑と自宅跡を片付けてくれました。たくさんの人が手弁当で駆け付け、無償の労働をしてくれるのが不思議でしたし、感激しましたね。特にリルーツのボランティアは畑づくりや農作業の手伝いもしてくれる。農家への応援の気持ちを感じます。
海水に浸った畑の土の状態は、簡単に復元しません。今年はレタスを作付けしましたが、収穫したうちの半分以上が不良で、市場に出荷できないんです。売り上げが戻らない一方、農機具を買いそろえていかないといけない。震災前の暮らしに戻るには何年かかるでしょう。
それでも少しずつ前に進んでいると感じます。作業場も建て直しました。仕事をしていると、近くに住んでいた親戚一家がやってきて、「自分たちも戻ってくる」と話していきます。ゼロからの道のりをここまでやって来られたのも、ボランティアの支えがあったから。本当にありがたいですね。

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◎地域支援団体「ReRoots」の活動 電話022-762-8211

仙台の大学生らが中心となって運営する民間の震災復興・地域支援サークル。昨年7月から、仙台市若林区に建てたボランティアハウスを拠点にして、中長期的な農業支援に取り組んでいます。がれきを撤去して農地を使える状態にする復旧作業の段階から、その農地で実際に作物を作る復興の段階を見据え、地域のつながりづくりやイベントなどの活動も展開しています。ホームページツイッターフェイスブックを参照ください。

ほかにも、がれき撤去や耕作支援などのボランティア活動があります。社会福祉協議会が各地で行っているもの以外に、民間で運営されている活動をいくつか紹介します。

  1. 1津波復興支援センター(仙台市宮城野区岡田) 電話 022-259-0731
    一般社団法人「仙台災害復興支援協議会」が運営している。ボランティアは家屋の片付けや田畑のがれき撤去などを行う。5人以下であれば予約不要。
  2. 2陸前高田カモメネット(陸前高田市) 電話 090-3130-0703
    陸前高田市の市民グループによるボランティア団体。農地のがれき撤去から野菜の栽培支援、花を植える活動などに取り組んでいる。
  3. 3遠野まごころネット(遠野市) 電話 0198-62-1001
    遠野市を拠点に、岩手県の三陸沿岸地域にボランティアを派遣している。がれき撤去や清掃活動、農業支援などの活動をする。
vol.3 農家として生きる

仙台市若林区の海岸沿いは人口100万の大都市近郊にありながら豊かな自然に恵まれ、震災前は田園地帯が広がっていました。昔からの米や野菜の生産地で、10代以上続く農家も大勢います。
今回取材させていただいたレタス農家の相沢宏信さん(61)も、そんな農家の1人。何代目になるのか尋ねたら「8代目ぐらいかな?」とにこにこしながら首を傾げていました。
相沢さんは津波で、自宅と畑70㌃、ハウスなどに被害を受けました。残ったのは自宅の基礎とがれきの山だけ。1台何百万円もする農機具もすべて流されました。いまは少し離れた場所でアパート暮らしをしながら、畑を直してレタスの栽培を再開しています。

レタスの苗

周囲を見渡すと、がれきこそ撤去されたものの、相沢さんのレタス畑と新しく建てた作業小屋のほかには何もありません。相沢さんは農機具をそろえたり、作業場を整えたりするのに相当なお金がかかること、津波で表土が流されたことや塩分で畑の状態が悪くなり、半分近くのレタスが売り物になっていないことも話してくれました。わたしはその大変さを知り、「よく農業を再開する気になったな」と思ったほどです。
どうしてそこまでして?と聞くと、「ずっと農家やってきたからなあ」とポツリ。
「この歳だし、今さら別の仕事はできない。まあ、息子が継ぐって言っているから、何とかいい状態で渡したいと思って。周辺ではほかに専業農家がいないから、続けなきゃっていう気持ちもあるかな」
奥さんと2人だけでも畑を再生しようとしていた相沢さんにとって、農地ボランティアさんたちの存在がどれほど助けになったか知れません。逆に、ボランティアさんたちはそんな状況でもくじけない農家のみなさんを見て、勇気をもらっていたのではないかと思います。

相沢さんご夫妻

被災地を元のような田園風景に戻すには、どれだけ長い年月がかかるでしょう。そして、どれだけ多くの人の手とお金が必要か。途方に暮れるのが当たり前です。それでも相沢さん一家は少しずつ歩き続けています。
「大変でもいいんだ。しょうがねえさ」。相沢さんが笑いながらつぶやいたひと言に、自然とともに生きる農家の強さを見た気がしました。

(鈴木 美智代)

追記:相沢さんからのメッセージ。被災地では何も生産できていないと思われているのか、せっかく出荷したレタスもなかなか売れないのだそうです。消費者に向けて「ぜひ地元の野菜を食べて」と呼び掛けていました。