2013年2月14日 河北新報掲載
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今できることプロジェクトは1月29日、3回目となる「被災地視察バスツアー」を実施しました。今回は東松島市と仙台市の被災地を訪ね、復興に向けた構想や仮設住宅で暮らす被災者の思いを伺いました。
【東松島市】
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東松島市のがれき処分場。被災者を雇用し、手作業によって可燃物を19種類に分別している
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東松島市にできた太陽光発電工事専門校。大規模な太陽光発電プロジェクトの推進に向けて、人材育成の拠点になっている
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東松島みらいとし機構は、地域資源の中で雇用や豊かな暮らしを生み出す復興構想を掲げている
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東松島市では、行政と民間をつなぐ組織として市などが設立した一般社団法人「東松島みらいとし機構」を訪ねました。産学官の連携に地域住民が加わり、一体的に市の復興計画を進める点が特徴です。
専務理事の大村道明さんは、市の復興構想について、自然の摂理に沿った人間社会の構築を基本理念とし、持続可能な環境未来都市を目指すことを説明。農地に設置する太陽光発電や沿岸被災地でのバイオマス燃料栽培など約30の事業計画を紹介してくれました。森の中に、自然を生かした学校を整備するプロジェクトもあるそうです。大村さんは「復興を進め、人間らしい暮らしによって生きていける地域にしたい」と話していました。
同機構の渥美裕介さんは、市のがれき処分場と太陽光発電工事専門学校を案内してくださいました。市は手作業による分別も導入し、可燃物の97%をリサイクルしているそうです。東名では、海水が田畑に入り込んだままの地域も。復旧させるか、現状のまま自然に返すべきか、難しい問題となっています。
【東松島・イグナルファーム】
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東松島市東名の水田。海水に浸かり、被災した建物や車も放置されたまま。水田に復旧させるか、このまま湿原として自然の姿に戻すのかが議論になっている
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栽培中のキュウリや事業の課題などについて説明する阿部さん
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東松島市赤井の「イグナルファーム」は、被災した農家ら4人が2011年12月に設立した農業生産法人です。名前には、消費者、会社にかかわる人、地域の農業、みんなが「いぐなる」(良くなる)ようにとの願いが込められています。
同社は事業再開のスピードを重視し、国のモデル事業を活用。農協が国から補助を受けて建設したハウス3棟を借り受け、パート従業員含めて18人でキュウリとトマトを栽培しています。最近普及が進んでいる水耕栽培ではなく、昔ながらの土を使った栽培にこだわっています。
社長の阿部聡さんは震災で妻と子ども3人、祖母を亡くしました。「仕事だけは」と考えて設立に奔走したそうです。「被災農家の希望となり、農業の未来をつくりたい」と話していました。
【仙台・岡田】
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仙台市宮城野区の岡田西町公園仮設住宅では、入居者の方に集まっていただき、暮らしぶりや今後の不安、地域再建への意欲などを伺いました。
ここは津波で被災した宮城野区南蒲生地区の住民52世帯が入居しています。いち早く自治会をつくり、住民同士の交流を図ってきました。
南蒲生町内会は昨年、「復興部」を組織し、集団移転の対象となる災害危険区域と現地再建地区の住民が一体的な地域づくりのために話し合い、市にも自主的な復興計画を提出しました。復興部の二瓶明美さんは「蒲生の再生を盛り上げ、地元から離れた人にも戻ってきてもらえる街をつくりたい」と意気込んでいました。
【仙台・荒井東】
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仙台市若林区の荒井東地区は、市地下鉄東西線荒井駅(仮称)が2015年度に開業する予定で、新しい街づくりの構想が進んでいます。さらに周辺は沿岸部の津波被災者の移転候補地にもなっており、注目が集まっています。
ツアーでは、構想の推進母体として設立された「荒井東まちづくり協議会」事務局長の榊原進さんから話を伺いました。
榊原さんは、地権者や民間企業が連携して環境負荷の少ない「スマートシティ」を目指す構想を説明。住民同士の交流やにぎわいの創出、低炭素、減災などを重点項目に掲げている点を紹介し、「先進のエコライフと豊かなコミュニティで次代の暮らしをリードする街づくりを目指したい」と語りました。
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日本たばこ産業(株)仙台支店 今松純一さん
悲惨な経験をしながらめげずに前に進もうとしている被災者がいる。一方で、行政や国、ボランティアなどのさまざまな支援がまだ足りていないと感じました。
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一般社団法人日本いのちの電話連盟 岡本正子さん
被災地の人々の復興に向かう息遣いを感じました。その心意気に、未来に向けて宝の山が築かれているようにさえ思えます。
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(株)IHI東北支社 阪本俊司さん
可燃物を手で分別処理し、再資源化している東松島市のがれき処分場に感銘を受けました。また、被災農地や農家が抱える問題について考えさせられました。
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三井物産(株)東北支社 田辺創一さん
被災者や復興にかかわる人の話を直接聞けたことで、ただ風景を眺めるだけとはずいぶん違う印象を受けました。
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リコージャパン(株)東北営業本部 安藤明さん
被災者の悲しみを消し去ってあげることはできない。ですが、楽しめることや笑い合えるものを提供できるように力をつけていきたいです。
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(株)エイチ・アイ・エス東北・北海道事業部 伊藤龍一さん
私は中国人ですが、日本人は心が強いと思った。被災された方はすべてを失ったなかで前へ進もうとしています。それを支える国や県、企業の取り組みは素晴らしいと思います。
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(株)日本政策金融公庫仙台支店 東北創業支援センター 今野慈彦さん
被災地を見て、復興は途上だと感じました。ただ、被災者の方々は未来の街や地域を自分たちで作ろうとしていた。見える風景に変化はなくとも、確実に前に進んでいる復興もあるのだと理解を深められました。
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(株)エイチ・アイ・エス東北・北海道事業部 島崎裕介さん
東松島みらいとし機構の説明が興味深かったです。震災をばねにより良い街をつくろうとしている取り組みに、個人としても企業としても協力できればと思いました。
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住友生命保険相互会社仙台総支社 少弐利之さん
イグナルファームの阿部さんが哀しみを乗り越え、新たな農業に挑戦する姿に感動した。一方で、やっと立ち上がっても障壁が多い現状に驚かされました。何とか事業を成功させてほしいです。
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一般社団法人日本いのちの電話連盟 山下百合子さん
被災者や復興にかかわる人々は「歴史を作っている」のだという気がします。言葉に尽くせない思いで充たされました。感動と力をもらいました。
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